サンティアゴ巡礼 -フランス人の道- Day 22

5月3日。
廊下から聞こえる物音で目が覚めて、外の明るさ的に7時半くらいかなーなんて思いながらまどろんでいると、近くの部屋からスマホのアラームが聞こえてきた7時。室内はとても乾燥してるし、自分のアラームは8時半に設定していたけど、まあこうなるよね。
7時半にもうのりさんたちは出発したんだろうなと考えて、8時に朝食を食べに行くことにした。

オラ、ブエノスディアス!とレストランの女性従業員が元気良く挨拶をしてくれた。そのお姉さんは英語がわからないようだったが、ルームキーを見せて、代金はもう支払っていることを伝えたら通してもらえた。美人ではないけれど明るい感じの人で、さらっと対応してくれたから不快ではなかった。

ブュッフェ形式でもう何から何まで揃っていた。さすがホテルの朝食だ。



でも自分以外の客が誰もいなくて、予約の際に三泊とも朝食セットで支払ってしまったことを、あちゃー…スーパーで買い出しをすべきだったか…?とプチ後悔したが、徐々に人は増えていった。
昨晩、隣の部屋のお兄さんが挨拶をしてくれたが、彼が特殊なのではなく、ほぼ全員が挨拶をし合っていたのが衝撃だった。当然皆面識はないのに、ブエノスディアスと声を掛け合っていた。日本のホテルではなかなか見られない光景だ。いや、会釈をすることはあっても、声に出しての挨拶など皆無だろう。

食べ始めるとめちゃくちゃ美味しいし、時間も焦らないでいいから最高だなと感じた。ここに来てやっとヨーロッパの優雅な朝を体感できている。でも1ヶ月掛かってしまったな。
明日も明後日もまたこいつ来たのか…!となりそうだけど、全制覇するくらい食べ尽くしたいと思った。初日からコンプリートするんじゃないかって勢いで、苦しくなるくらい食べたけど。

部屋に戻ると太陽が少し眩しかった。カーテンは無くてレースだけなので、太陽にもうちょっと上へと昇っていただきたい。
メモをまとめながら、手持ちのクッキーを食べてみたら美味しさが減っている気がした。そりゃ開封して時間が経つもんな。ここに滞在している間に食べきってしまおう。

カミーノは楽しいは楽しいけど、遍路と比べると最後の達成感が段違いだろうな。30km歩いたのなんて数えるくらいだし、多分このままでは大窪寺のときのような言葉を失うような感覚は味わえない。やっと終わったー!楽しかったー!ってな感じだろうか。
その達成感とやらをこの旅でも手にするには、距離を伸ばすというか、もっと無理を強いればいいのだろうか。19~21の宿は決まったのだからもうそこはいじりようがない。どう予定を組もうか。

10時45分に小さな女の子が泣いていて、それをXperiaにプリインストールされている着信音で泣き止ませていた。
11時頃にえりこさんから、あそぼーとLINEが入った。今は広場で知り合いが来ないかと出待ちをしているらしい。足は昨日よりマシとのことで良かった。
「外寒いから、Tシャツでおいでね」「タンクトップで行くね」「言ったね?」なんか仲の良い女友達(もしくは面倒見のいい姉貴の友達)と話しているみたいだと思った。別にその解釈で問題ないだろうけど。

歯を磨いたり、髭を剃ったりして、出発した。

えりこさんの言っていた通り、外は本当に寒かった。また裸足でサンダルを履くという昨日と同じミス(でも休みの日にトレッキングシューズは履きたくないし、サンダル×靴下の組み合わせには抵抗があった)。でも歩いていれば体は温まってくるのでさほど問題ではない。足元以外はちゃんと着ているし。


Oasisを聴きながら歩いた。もう主要な道は覚えてしまったので、通ったことのない細い道を選んだら、とても新鮮だった。

ってな風で調子に乗っていたら、気付いたらかなり正しい道から離れていて、マップを見てもよくわからないので「カテドラルはどこですか?」と地元のおじいちゃんに聞いた。大きな建物だし近付けば見えてくるだろうとナメていた。他の建物も高さがあるからなかなか見えなかったというオチ。

昨日も歩いた通りにようやく復活。

なぜかこの広場で中学生くらいの子たちがプチ運動会をしていた。学校自体あまり見かけないが、運動場がないのだろうか。

島村さんと以前絡んでいたドイツ人の酔っ払いおっちゃんに捕まったりもして、12時から10分ほど待たせてしまった。わりとすぐにカフェのテラス席にいた彼女を見つけられたのはよかったが。(こちらには通信手段がない)

先程大聖堂の中に入ったりしたみたいだけど、知り合いとの再会はまだなご様子。なぜかリップスライムのOneを歌っていた。

昨晩のお別れ会では「この歳になってこんな泣くとは思ってなかった」というほど号泣だったらしい。何やらシンが手紙をくれて、そこにぴったりの曲があったからと歌詞が書かれていたみたいで、それを訳してみたとこの場で彼女が読んでくれたのだが自分まで感動した。シンも粋なことをする男だ…!
自分はえりこさんたちに出会ってから、まだ数えられる日数しか経っていないが、のりさんとゆみこさんは初日からなので3週間、シンもそれに迫るくらい一緒なわけで、本当に家族みたいな時間を過ごしてきたんだろうな。排他的なんかではないから自分もその空間にいることはできたけど、一家水入らずな感じで逆に良かったかもしれない。

同じ長期の巡礼の旅ということで、どうしても遍路と比べてしまうけど、歩かない日にカフェのテラス席でお茶をしている時間なんて遍路にはなかった。だから、こうしてゆっくり過ごしているということ、そういった時間が取れているということは、素晴らしいなと率直に感じた。
えりこさんにとっても初の時間だったので、歩き以外の過ごし方を知らないよねなんて2人で話しながら、徐々に彼女の知り合いが大聖堂前に到着し始めたので、あ、あの人知ってる!とか、んー知らないなあ…みたいな観察をしながらのんびりと(或いは優雅に)過ごしていた。

自分の知り合いについて考えてみた。一番好きな男女のヘススとレカには会えた。昨日はその他の人にも沢山会えたし、今思い出す人は少ない。
親しく接してはないけれどスウェーデン夫妻はどこにいるかなとか、パンプローナスタートのハンガリーのあの女性はまだ後ろにいそうだなとか、ジャックやボーイズファミリーはもう前かな等々。挙げようと思えばまだ何人かは挙げられるんだけど。

のりさんは奥さんを亡くされていて、ゆみこさんは旦那さんがいると教えてくれた。今日2人は一緒に歩いているらしい。擬似夫婦、カミーノカップルだ…と自分が言うと笑っていた。
最初の頃は家族と勘違いされることが多くて、We’re all alone!と言ったことがあるという話に、なんかかっこいい、曲名みたいとツッコんだ。

ゴールデンが近くを通った。可愛い!リードしないからあんなに優雅に歩いちゃって!とえりこさん。

太陽が雲に隠れて日差しがなくなると寒くて、やっぱり靴下は必要だったなとまた思ったり、自分がラベの民宿のようなアルベルゲで貰ったネックレスと一緒の物をえりこさんも持っていることに気付いたり。(教会に併設されたアルベルゲで貰ったらしい)
今まで出会った中で印象的だった人の話もした。小人症の人や、足が悪いのに4回目のカミーノの女性の話が印象的だった。

知り合いかと思ったら違ったとえりこさんが呟いた。さっきしていた会話で、出発地点と日付をもう書いててほしいよねと話していたので、今度は、バンドのツアーTシャツの●月●日 Zepp Tokyoみたいな感じで、泊まったアルベルゲの名前書いていってほしいわと言うと爆笑していた。いや、でもアルベルゲの名前じゃわかんねーか。やっぱり町の名前にしよう。

えりこさんは明日からの日々が不安そうだった。まず第一に怪我があるし、初めて1人になるわけだから、心細くなるのは防げないかもしれない。えりこさんなら1人でも大丈夫と励ましたけど、あまり効果はなさそうだ。
ついさっき、どっか教会とかで隠れてシンをわざと追い抜かさせて、後ろから初めてっぽく挨拶すると彼の最高のフェイクスマイルが見れる、という最高にシュールな遊びを教えてくれたし、次会うときはKorea?って彼に聞こうかとか笑いながら話してたんだけど、まあ不安にならないわけがないか。

カフェを離れる前に血液型の話をしていたのだが、そのときジャックが遠くを歩いているのが見えた。

つのだひろにブルース・ウィリスを混ぜたような俳優顔のおっちゃんもいた。レオンに到着するの早いな…と驚いたが、他の人と話している内容を聞いていると、どうやらちょっとだけバスに乗ったっぽい…?前の人と長いこと話していたが、自分に気付くと肩をポンっと叩いて、元気かい?と話しかけてくれた。もう会えないものと思っていた。
靴を変えたら足の状態も良くなった。荷物も軽くして歩いていたってことは荷物サービスを使ったのだろう。以前の彼は辛そうだったので賢明な判断だと思う。
君はどうだ?と聞かれたから、すべて良いよと返したら君はラッキーだと言われた。元気だよって伝えたかっただけで、すべて良いというのはさすがに盛ったけども、でも最近は手首の痛み以外にこれといったトラブルはない。

韓国人についてえりこさんと話したが、上げ下げあるよね…とお互いに似た印象を抱いていた。でも彼女曰く、強いから黙々と歩いている人が多いと。精神力なのかな。韓国人以外も楽しくなさそうに歩いている人を見かけることがあるが、まあ人それぞれだ。
えりこさんもこの旅の間に風邪を引いたらしく、気を遣うよねと言うと、のりさんたちと別れて、(部屋にベッドが4つある?)ホテルに泊まって、湯船に何度も浸かって強引に治したと教えてくれた。
昨日バスタブ入った?と聞かれたが、残念ながら時間もなかったから入っていない。アルベルゲと一緒だ。汗とか気にしなくなるよねという話に転換していったが、でも今日は広場に来る前に、メイク落としシートと色付きリップを買ったと言っていた。うん、女子だ。ちゃんと女子のまま歩いている方の女子だ。偉い。

風邪のタイミングかどうかは忘れたが、荷物サービスも使ったと言っていた。すべてがこのときに教えてもらった情報ではないのだが、もう説明するためにまとめておこう。
自分とそのこちゃんと、えりこさんたちファミリーが同日出発なのに半分辺りまで出会わなかったのは、初日の山登りが関係している。
というのも初日に彼女たちは、ピレネー山脈のナポレオンルートに朝早くから挑戦したのだが、その日は山の途中の(荷物サービスで荷物を送っていた)オリソンという町に泊まって、その次の日の山越えは雪で山が閉山していたので断念して、結局車?に乗って自分たちが通った方の道まで移動して、また歩き直したらしい。
強引に山を越えた人たちもいるのは知っているが、えりこさんたちのその状況は、あの受付のおばちゃんが最悪そうなるよと懸念していた内容の通りだった。
他にも何か書いておいた方がいい気がするけど、とりあえずそんな感じで初日から差が生まれていたので、なかなか出会うことがなかったというわけ。

2時にえりこさんの新たなアルベルゲにチェックインをしに行ったが、まだ受付に人がいなかったので、昨日のアルベルゲへと荷物を取りに戻ることにした。

もう会わないかもと思っていた人と15分後くらいに会ったりするし、また会えるだろうと思っていた人と全然再会できなかったりするのは、きっと全巡礼者共通だろう。
メインの通りを歩きながら知り合いをカウントしていった。でも自分のは昨日で出尽くしていたので0。えりこさんの知り合いは何人かいた。
最終的にこの日自分が再会した知り合いはえりこさんに比べるとかなり少なかった。ケイ君がレオンに来て初顔が増えたと昨日話していたが、自分の知り合いは沢山いた。
要は知り合いが沢山いるウェーブがあるということ。その波の中にいれば顔見知りだらけだし、その波の前や後ろになると知り合いは減ってしまう。
一本道ではあるけど、多くの人が最初にモデルプランの紙を貰っているので、基本的にそれを参考にしながら巡礼者たちは歩いていく。だからそういった人々の波・大きなグループが顕著にできあがる。それはカミーノの特徴でもあるだろう。

元のアルベルゲに着いて、荷物持ちますよと言ったが、明日から1人なんで!と断られた。でも重みがあるとやっぱり足が痛いと。先程のカフェでも伝えたが、もう今は自分のことより、えりこさんのことの方が心配だ。
サンティアゴに着くことを最大の目標にして、無理しない方がいいですよと声を掛けると、明日は荷物サービス使おうかなと呟いていたので、使っちゃいましょう!と言った。明日歩く距離も20kmか10kmで迷っていたので、様子見で10がいいような気がするとも言った。

そしてこれがえりこさんの今日のアルベルゲ。出入りも確かカードキーだったし、建物内も見るからに綺麗だった。

突如、ん…!と驚いたのはすれ違った男性がモンベルを着ていたから。こんにちはと後ろから声を掛けてみたら相手は振り向いた。40代くらいの穏やかそうな雰囲気の方で、カミーノは区切りで歩いていて、今回は1週間でブルゴスからレオンまで歩いたということだった。
少し話して彼と別れてから「話しかけてみるもんだね!ありがとう」とえりこさんにお礼を言われた。やはり日本人に会えるというのは貴重だ。(昨日の最高に感じ悪かった女の子は1234ガールのようにネタ化してしまったが)
ってか日本人のユニフォームはもうモンベルでいいな。えりこさんノースフェイス着てるけど。

サッカーを観ていたドイツ人のおじいちゃんもいた。彼にちょっと見てくれと、強制的に写真見せられたのだが、白人の男性とポップ(昨日大聖堂で会った韓国人の女の子)のツーショット写真を見せてくれた。息子が最初の10日間彼女と一緒だったらしい。めちゃくちゃ強く握手をしてきたが、多分自分のこと韓国人と思ってるわ。
それにしても親子で別行動なのか。えりこさんが知り合った韓国人の姉妹も別で歩いてるらしい。日本人ではまずありえないだろう。

ガウディの銀行前のベンチに腰掛けて、またのんびりと過ごしていた。えりこさんが、こんなに優雅でいいのと言うくらいには優雅だった。今日は天気も良いし。 
銀行前にはカップルとおデブちゃん(男)がいて、おデブちゃんを指してか、一人っていいよねえと呟くようにえりこさんが言った。このときの自分はプライベートにおいての気楽さについてと解釈したが、どんな意味だったのだろう。
カミーノに置き換えても、まあ一人の方が楽は楽だろう。カップルで歩いていたらできる友達もできなさそうだし、片方がもうこれ以上歩けませんという怪我でもしたらもはや悲劇だ。

考えてみればガウディの建築前でこうのんびりと過ごすって贅沢だよなと思ったが、えりこさんはガウディはそんなに好きじゃないとのことだった。
そんな彼女は出発前にBMX(自転車レース)で遊んでいてアザを作って来たらしい。バカだなあと独り言のように言っていた。きっと今の状態も影響しての心情なのだろう。

韓国人の友達がレオンに着いたからカテドラルに来るのを待つということで早めに移動した。

何十人といた学生たちが遅れてきた先生に対して、遅いよ!!と囃し、指笛や歓声を上げていたのだが、その即席のサッカースタジアムのような盛り上がりっぷりに圧倒された。外国人は生まれながらに外国人なのだ…。

えりこさんが座っている間に自分は大聖堂を一周してみた。

この壮観よ。

そしてキョンちゃんが来た。日本語が少し話せる女性で、年齢は30前後とかかな。昨日他の人のいびきで眠れずバスで来たらしい。わお。
レオンに到着したばかりのキョンちゃんのために散策をすることになった。

今日は日本食レストランが開いているようなので、また夕食に来る予定です。(昨日、明日はうどんを食べよう!とは話していた)

左がキョンちゃん。Mr.マリックのようなかっけーサングラスを掛けていた()

サン・イシドロ教会の前でさっきの日本人のおっちゃんにまた会ったし、通りのカフェではくつろいでいるマリオおっちゃんと話した。彼は明日再出発らしいが、君は歩くのが早いからすぐに追いつくさと言われた。
チャイニーズスーパーで辛ラーメンを探す流れだったが、遠いからやっぱり止めようってなって、またうろちょろした。

路地でサッカーをする少年たち。ボールが飛んできたので蹴り返したらサンキューとお礼を言われた。でもグラシアスでいいんだよ。むしろグラシアスのがいいよ。

時間が午後4時になってしまっていたので、シエスタorノーフードタイムで、どこも食べられる店がなくてしばらく彷徨った。昨日のデジャヴだ。飲食店だけでなくスーパーもかなり閉まるし、何もできなくなる。昼間なのに真夜中とほぼ同じ状態って。
結局、キョンちゃんはKFCを食べるということで夕食まで一旦お別れ。

それから2人で開いているスーパーに行って、えりこさんが選んだカレーヌードルいいなーと真似したけど(辛ラーメンはアルベルゲのキッチン使えるっしょとのことだったが)、こちらも一旦別れる流れになった。まあ、そのうちどこかのキッチンで使えるか。それまで荷物にはなるけど。

20時にカテドラル前でまたと別れた。この時点で9km歩いていた。アルベルゲは大聖堂の近くにはあるけど、えりこさんもそれなりに歩いているはずだ。でも友達と行動するとこうなるんだよな。しっかりと休むはずだったブルゴスでもそうだった。

ホテルはフロント前に見覚えのある巡礼者のおっちゃんがいた。部屋の鍵を開けるのが早くなってなければ危うくおしっこを漏らすとこだった。危ない。

タオルがきちんと洗濯乾燥されたものに交換されていたのは嬉しかったが、買い物内容は微妙だった。時間が中途半端で迷ったのもあるが、多分足りない。今食べられるのはカットフルーツだけだし。女子やん。

10km歩いてるのはよくないなあ。まあ、プラスに足が衰えてないと捉えるしかないか。でも休養のための滞在なんだけどなあ。

ふとえりこさんのインスタを見たら、普通に自分の顔も写った写真が何枚かアップされていた。リーは、撮っていい?と聞かれたときにNo noと断っていたから、別れる日にちらっと撮った写真も多分気を遣ってくれて上げてはないんだけど、こうして自分の顔を見るとなんか恥ずかしいなと思った。
まあ、どっかの外人がHeeey picture!!みたいなノリで撮った写真には写ってるだろうし、それはとっくに上げられてる気はする。実際ロザンカが上げているのも見たし。
他撮りというか写真に写るのはできるだけ避けるので、そういった写真を見る機会も最近はほとんどなかったけど、久しぶりにこういう形で自分の顔を見ると、いやー、ほんとに好きじゃないな。不細工だなあと落ち込んでしまったが、まあ気にしてても仕方ないので、もう他人を不快にさせてなきゃいいやと割り切った。どうせ、載せていい?と聞かれてもいつも断れないし。

バスタブにお湯を張ってはみたが、予想通り肩までは浸れなかった。もはや足湯だ。お風呂関連はかなり低い評価になる。
そして浸かれない浴槽の中でシャワーを浴びながら考えた。地の果てはバスでいいなと。
カミーノは楽しいけれど、やはり遍路を越える達成感はないと思う。だからこの楽しい旅を、楽しいまま終わらせるのもありなのではないだろうか。元の目標だった『優雅に歩く』 でも決して問題はないはずだ。
ゴールの向こう側まで歩くことより、仲の良い人たちとゴールしたいと思う気持ちの方が今は強い。達成感達成感言っても、これが最後の巡礼の旅でもないだろうし。
お昼にえりこさんとも話していたけど、サンティアゴ以降はエキストラステージみたいな感じだから、どうモチベーションを持って行くかが難しそうだ。その先まだ歩かなければいけない状況だと、サンティアゴでの達成感は更に薄れてしまう。なんてたってサンティアゴ巡礼という名前の旅で、サンティアゴで終わらないというのも違和感がある。
でも、まだ決めかねている。どうすべきなんだ。

今日はまだマシだが、すべての出来事や風景を記録することはできないし、またすべての会話も書き留められるわけではない。
もっと気楽に過ごしたいと思う。途中で記事が薄くなるのは困るけど、遍路のときはここまで正確にメモしていなかったと思う。もっと断片的なメモで記憶に頼って書いていたはずだ。
メモが精神的負担になっていると感じる。過去に意識がいって、今を見逃すなんてのももったいなさすぎる。だけどこの先も書いてしまうんだろうな。

18時半前に近くの部屋から女性の喘ぎ声が聞こえてきた。最初はテレビの音か?とも考えたが、本物の方だった。つまりまあ、セ●ックスしている声だった。

このままプラン通りに歩いていても、昨日大聖堂付近にいた自分の波までは追いつけないだろう。それは知り合いたちに再会できないということだ。2日の遅れを取り戻すのなら、2日分余計に歩かなければいけない。
迷いに迷ったが最終的に、地の果てまではやはりバスで行こうと決めた。完全に、自分は、バスで行く。
サンティアゴへ集まる日とサンティアゴから離れる日は決まっているので、とりあえず当初の予定より早めにサンティアゴに着いて、そこからフィステーラとムシアという2つの場所に行って、また戻ってくる。そういう計画だ。だが、歩きに比べればまだマシだが、バスで行くにしても、地の果てを往復する日数をこれから稼がないといけない。つまり自分の波すらも追い越さなければいけない。もう誰と最後に出会うかは運だ。

また外へ出た。今回は靴下を履いています。ありがとうございます。
NGHFBのFort Knoxを聴きながら歩いていたら、工事現場の曲がり角で、お姉さんが散歩していた黒と茶のラブラドールの黒い方にぺろりと舐められた。

大聖堂に近付いていたら俳優おっちゃんが7,8人で輪になって話していたのだが、自分に気づいてくれて手を振ってくれた。嬉しいね!

キョンちゃんらしき人が10分前に歩いているけど彼女なんだろうか…と思っていたら(結果そうだった)、後ろからリオ!とえりこさんに呼ばれた。わりとすぐにリトアニアのイケメンが同部屋にいると楽しそうに教えてくれた。
そのえりこさんに、自分はエキストラステージは歩かないと伝えた。知り合いと感動を分かち合える可能性を上げると。すると、それもありよねえと彼女は言って、同日に会ったケイ君(前から存在は知っていたけどほとんど話してなかったみたい)とりょう君は、ケイ君はぶっ飛ばすタイプで、りょう君は自由に自分のペースで行くタイプだよねと続いた。
きっとその通りなんだろう。焦る必要はどこにもないと自分は思っているわけだから。
これに続いて、マドリード行くのいつ?と聞かれた。一緒に観光とかできたら楽しかったかもな。残念ながら日程は合わなさそうだけど。

店に向かう途中に、えりこさんから話は聞いていた知り合いの男性+ジェニファーともう1人女性がいて、知り合いとその知り合いが話している間に、後ろでただ待ってるのあるあるだよなと思った。
でもその会話がなかなか終わらないので、先に店を見に行ってちゃんと夜も営業しているのを確認した。それから店を通り過ぎて適当にふらふらしていたら、レストランからメニューを手に持ったまま俳優おっちゃんが走ってきてくれた!
町の名前は忘れたが彼は明日は20km歩くらしい。ここまでアツく接してくれる彼なので、また会いたいよ!と伝えたら、いつも君はアルベルゲに泊まってるのか? と聞かれて、また会ったら何か飲もうと誘われた。お酒は恐ろしいけど、その気持ちが嬉しいよね。

ではこの『Koi』に入店しませう。(昨日行った店が1階+半地下で、コイは階段を上がって2階に店舗があった)

その前に処置中のえりこさんの足。

久しぶりお箸…!ウェイトレスのお姉さんは着物風の洋服を着ていた。 

三谷藤夫という日本酒を発見。他にも日本っぽい物がインテリアとしていくつも飾られていた。

馴染みのあるメニューが並んでいるのはいいが、昨日もそうだったように確かミシュランで星がついている店だからちょっと高いんだよな。メニューを見ながらかなり真剣に悩んでいるキョンちゃんに大丈夫?と事前に聞いておけばよかった気はする。日本人2人は絶対に来るつもりだったけど。

いや、よく見たら馴染みのある単語ってだけでどんな料理かはわからない。Ramen udonはラーメンのことでいいのか…?天ぷらのところにあるウドンスープってのも何だ…。天ぷらうどんでいいのか…?

Sushi riceも何だよ…?うーん、うーん…。何だよ…?

朝めっちゃ寂しかったけどりょうがLINE返してくれて気が楽になったとえりこさんがキョンちゃんに話していた。1人になることを心配しているその様子を改めて見て、やっぱり女の子だなと思った。  
しかし、この女の子がここからテンション爆上げ暴走状態になります。
まずキリンビールと枝豆が来て、えりこさんは「Peeeeerfect!!!!!!」という反応。その光景に思わずウェイトレスも笑っていて、自分と目が合うと更に笑っていた。

隣の客(上の写真とは逆側)も巡礼者だった。雰囲気的に夫婦っぽくはないけど年配の男女で、寿司を食べていた。今度は彼らが、うどんが来た時のえりこさんの反応を笑った。「オージャパニーズ!!!」とその興奮を声に出したのにはキョンちゃんも含めてみんな笑うしかなかった。

日本のうどんとはスープが違ったし、エビもお前かよって奴が沈んでたけど、まあ麺は一緒だから、久しぶりにうどんが食べたいという欲は満たされた。えりこさんもきっと満たされたはず。全部は食べれないからと残りは貰ったけど。

キョンちゃんにどうやって日本語覚えたの?と聞いたら、本当は日本に来て勉強したかったけど、野島伸司のドラマとかを観て覚えたって。えりこさんが野島伸司を知らなかったから、なんか残酷なのだよと説明していたら、ソウ!ザンコクゥ!とキョンちゃん。デモ、カンドウ?カンメイ?シマス。

巡礼者メニューは完全にネタ要員。基本的に1stがスープ、パスタ、サラダとかで、2ndがポテト付きポーク、ポテト付きチキン、フィッシュなど。店による違いはあまりないので、どこもほとんど一緒の内容。でもまた食べるんだろうねと言ったら、ノーモア!とえりこさんが言ったのは面白かった。
そして速報が入った。なんと、昨日の無愛想ガールは今日20km歩いたのりゆみペアと一緒らしい。笑う。日本人と一緒なのかよ。

店内はSiaのChandelierや、ColdplayのA Sky Full Of Starsなどのカバー曲が流れていた。ここでリップスライムが流れてたら良かったのにねと言った。

なんか片付けられ始めたし、そろそろ出ようかというときに、隣のテーブルに天ぷらが来て、えりこさんがテンプラー!と反応したら、これ食べないかい?僕たちはお腹いっぱいだからと勧められた。最初は気を遣って言ってくれてるだけだろうと遠慮したんだけど、リオ!(行け!)と酔っぱらい番長から命令が下ったので、海老の天ぷらを一本貰った。なんていうか、つゆが欲しかったです。
彼らにお礼とブエンカミーノを言った。女性店員もかなり目を合わせてくれてたので彼女にも。まあ仕事だろうけど、最後もニコっとしてくれて爽やかだった。

店から出て、巡礼中最後のビッグシティは楽しんだ?と英語で聞いた。えりこさんから返ってきたのは「楽しめた!この薬局とか!」
そしてお別れタイム。えりこさんとキョンちゃんはハグをして、また会おうね!と再会を願っていた。
僕とえりこさんは、ま、普通に会うでしょと軽いおやすみみたいな感じ。(多分お互いにカミーノ中で最もあっさりした別れ)   

キョンちゃんとは帰り道が途中まで一緒だったので少し話しながら歩いた。自分と同じレオン出発日。明日も会うかもねと言われた。チャルガヨ!(ジャヨの方がよかった)

ATMでお金を引き下ろした。巡礼中は最後になるかな。Santander銀行のATMだったので手数料は大きく取られたけど、他のどこが安いとか知らないし、あまり気にしなかった。

ホテルに帰るとえりこさんからLINEが届いていた。今日お昼のカフェで「カテドラルのライトアップってあるかな?」「ないでしょ、電気ないし」と返されていたのだが、ライトアップされてた!と写真が貼られていた。
今日はライトアップにはちと時間があったし、明日はもう出発前夜なので行くかどうか迷う。彼女の回復を願っておやすみと送った。
リーからもインスタのDMが来たので少しやり取りしたが、シンジュ&クーが付き合っていることは知らなかったようでかなり驚いていた。 レオンはナイスプレイス、ハバナイスデイとのことだったので君もねと返しといた。
それからしばらくして、急にiPhoneが強制再起動した。こういう機械のトラブルまで遍路と比べさせないでほしい。

ふと、どんな未来が自分に訪れるか不安になった。何年か後、何十年か後、誰といるかなんて全然わからない。
それは笑えない未来かもしれない。どんどん小さくなっていく、大きくなっていくことが止まった自分をここに見つけた。
(ホテルで一人で過ごしていたら、こんな風に内省的な時間も訪れるが、この旅での割合は極僅かだったのは残念)

それから長いこと音楽を聴いていた。イヤホンを外すと子供の泣き声が今夜も聞こえた。
そして12時を回ってしまった。昨日のメモもまだまとめていない。でもまあ問題ないでしょ。寝よう。


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