5月4日。
7時10分過ぎに起床。多分この街から日本人巡礼者はほとんどいなくなってしまった。
朝食へは8時20分前に向かった。キウイだけは美味しくなかったが、ハムとチーズを食べ比べたりと本日も満足な満腹感。
BGMはBeckのDevil’s Haircutが流れていて、わかってるわ…と思った。自分の髪の毛もモサってきたから切りたい。切るタイミングないけど。
それからプラン作りに勤しんでいたが、遍路と関連があるモリナセカという町に滞在したいのに、その町が(日数を短縮する計画を組むには)中途半端な位置にあるというか、標高1500mの山の向こう側にあるから難しかった。
あまりに悩ましいのでレカさんにサンティアゴ到着日を参考がてら聞いてみたら15日ということだった。でも聞いたところで悩ましいのには変わりないっていうね。
とりあえずコインランドリーに行く必要があったので、洗濯物をサブバッグに詰めて、12時に外に出た。
ホテルから徒歩1分のこの建物は、かつての巡礼者救護院で、今は5つ星のパラドール(国営ホテル)として利用されている。でもカテドラルだけでなくこちらも工事中なんだな。
パリではよく耳にしたパトカーや救急車のサイレンをこっちでは初めて聞いた気がした。散歩中の犬がそのサイレンに対抗するように吠えていた。
乾燥機は2つとも空いているのに、洗濯機は3つとも空いていなかった。
地元のおっちゃんがやって来たので、止まった洗濯機から出しちゃっていいかな?とジェスチャーしたけど、最初その洗濯物が自分のだと勘違いされていたみたい。利用者を待っていても来ないので、とりあえずその前の人の分を出して、空いているテーブルの上に置いた。するとおっちゃんにフィニッシュ?と聞かれたから、いや、自分がこれから使いたいんだとまた身振り手振りで伝えた。今度はすんなり伝わったようだ。グラシアス!
説明はスペイン語でしか書いてないけど、まあ初期設定で大丈夫だろう。
自販機があったのでチョコレチェをゲット飲んでみた。味はまあまあといったところ。
待ち時間が30分あるのでパラドールの方へ移動。
レオンは大きな街なのでここを通らずに街から出る巡礼者もいるかもしれない。
パラドールに併設されているサンマルコス教会に入れるようだったので入ってみた。
録音された賛美歌が流れていたが、どこかポピュラーミュージックっぽさがあった。
ふと横を見たらやたらとリアルな人形があって驚いた。
カミーノピーポーも何組か来た。棺をやたらと触っているのが気になったけど。
こちらの部屋には石碑や棺が置かれていた。
祭壇の柵の内側にも入れたのだが、正面に立ったときに礼拝をしなければという気持ちになった。また、今すぐ寺社仏閣で頭を下げたいとも感じた。
タイマーが10分を切ったのでコインランドリーに戻ることにした。途中、車の外でロックをガンガン流しながら、犬と一緒に誰かを待っていたサングラスのお兄ちゃんと目が合ったのでオラと挨拶してみたら、見た目とは裏腹に爽やかな男性できちんと挨拶も返してくれた。こんにちはサングラス仲間。
残り時間を確認すると少し早まって40秒になっていた。ちょうどいい。取り出していた洗濯物はもう回収されていた。
乾燥機に移して、ふとテレビを見上げて、スペインって結構デモやってるよなとか、他の利用客を見て、知らない人でも挨拶をする国はそりゃ明るくなるよなと思った。
さっきのおっちゃんは洗濯機だけでさよなら。今度は洗濯機の空きが3、乾燥機の空きが0になった。
モデルプランの紙は持ってきていたが、ガイドブックも持ってくるべきだった。バッグがパンパンだったから仕方ないけど。
そして自分の乾燥機がEND表示になったのだが、え、開かない…と困っていたら、長いこと一緒にいた、かなり太ったおばちゃんが任せなさい!といった感じで、強く引っ張って開けてくれた。壊れそうでそれは試せなかった。
巡礼者だというのは丸わかりだったと思うが、困っている外国人に親切にしてくれた彼女にお礼を言った。功徳積んでるわ。
持ってきた時点でパンパンだったのが、洗濯物がどれもふかふかになっていたので、ファスナーを閉めるのが大変だった。
その場から去るときにもう一度お世話になったおばちゃんにお礼を言ったら、とても素敵でとびっきりの笑顔を自分に向けてくれた。それが心から嬉しかった。
今着ている物は洗えていないけど、洗った物はしっかり乾燥までできているし幸せだ。トレッキングパンツの変色している部分は落ちていなかったが、コインランドリーでも駄目ならもう気にしない。お手上げだ。
そのままパラドール前を通って、散歩をしていたら、矢印を発見した。普通に通る道だったか。
公園があったので寄ってみた。
しかしこの公園が衝撃的で、え、どういうこと…!?と戸惑った。というのもニワトリだけでなく、
クジャクも歩いていたから。
いやいやいや、なんで孔雀がいるんだ…?ゲートも何も無い場所で放し飼いされている。
イスラム系の女の子が目を本気で丸くしていたのが可愛いかった。きっと初めて孔雀を目にしたのだろう。
なにこの公園…ヤバイ…ウケる…と語彙力を完全に失うくらいには理解が追いつかなかったし、単純に楽しかった。
広い公園の中には子どもたち向けの遊具等も設置されていたんだけど、まさかこんなユニークな公園があるとは知らなかった。
みんなに教えてあげたいのにもう誰もいないというのが残念ではあったが、暖かくて最高の休日になった。
動物園でもこんな至近距離では見られないだろう。ニワトリだけでもえ…!とビックリするけど、でもまだ納得はできる。本当にクジャクってどういうこと。笑っちゃうわ。
鳩や鴨も沢山いらっしゃいましたよ。
明日の朝はここにある矢印に従って歩いていこう。大聖堂はもう行かないでいいや。
パラドールと教会の外観。ちょっと魚眼レンズっぽい写真だ。
それからホテルに戻って、いろいろと考え事をした。
カミーノ巡礼を通して、日本の巡礼路と海外の巡礼路の違いを考えることは多かったが、このときもそうだった。
遍路の良さとは何だろう。日本人が日本人に優しくされることへの驚きは挙げられるだろうか。でもそれに関しては地方の人間より、東京などの都市に住んでいる人の方がより感じられるかもしれない。おもてなしというより、人と人の距離感や人情についてだ。
そういった面でカミーノの残念な部分は、地元の人からは最近やたらと増えた韓国人の1人としか思われてないことだろうか。巡礼者の態度の変貌でも当てはまるが、日本人はかなり損をしている気がする。
自分の語学力の無さ、スペイン語をほぼ習得していないという実情は大きな影響があるが、そもそも地元の人と巡礼者が交流する機会があまりない。それを補うくらい巡礼者同士での絡みがあるから誰も気にしないだろうけど。
まあでも、遍路はあれなんだよな。祖母への特別な想いがあった祈りの旅だったから、どうしても贔屓目で見てしまう。一歩一歩の重みが違うんだ。
メインの考え事はもちろんこれからの計画について。地の果ても含めた巡礼プランを考えたが、その前に、ここで読んでくれている人たちのために、地の果てについて補足しておこう。
地の果てというのは、フィステーラというスペイン最西端にある岬のこと。中世では生と死の境目と考えられていたらしく、かつての巡礼者たちは、巡礼の旅の締めくくりとして、巡礼中着ていた服や靴をその地で燃やし、西の果てに沈む太陽を眺めながら、古い自分に別れを告げていたようだ。またキリスト教以前はケルト人にとっての聖地でもあったらしい。
そしてもう一つ重要な地があって、その地の名前はムシア。
フィステーラに比べると若干人気は劣るようだが、この地がサンティアゴ巡礼において大きな意味を持つのは、聖ヤコブがスペインでの布教活動に行き詰まって祈っていたら、聖母マリアが舟に乗って現れて、思い悩むヤコブを励ましたという伝説がある場所だから。海岸近くには『舟のマリア聖堂』も建っているみたい。
サンティアゴから続く道は途中でフィステーラへの道とムシアへの道で分かれているらしく、説明しがたいがそれには何とも言えない魅力があるし、惹かれる部分は多いにある。
だが歩けば3,4日費やすことになるので、その二つの地とサンティアゴを結ぶバスが出ている。また、乗り換えは必要になるがフィステーラ⇔ムシア間のバスも運行されている。
この時間を有効に使えたと思う。バスの時刻表も見ながら計画を立てた。それなりに無理をする日もできてしまったが、それはもうやむを得ない。
フィステーラとムシアのアルベルゲを予約した。サンティアゴはしなかったのは、まだ手前の歓喜の丘に泊まれるかどうかがわからないから。そこは流れに身を任せよう。
夕方(といっても昼と変わらない明るさの16時過ぎ)にスーパーへと出掛けたが、サングラスを忘れて眩しかった。
通りからは見えなかったが、奥にスーパーを見つけた。
しかしスーパーに来て悩むのは毎度のこと。お惣菜なんてあるわけないし、そのまま食べられそうな物はパンぐらい。今日はキッチンもないし、電子レンジもない。何を、どう食べよう、といつも悩んでしまう。
トルティージャはマジで食べ飽きたし、店内を走っている清掃車はかなりスピード出してて危ないし。
パスタサラダみたいな物がある…!と思ったら電子レンジで温めろと書かれていた。でもスーパーにも電子レンジは見当たらない。大型のスーパーだったので果物の個別売りもなんだか面倒臭そうだ。
ヨーロッパでカニカマは人気と聞いたことはあったが、実際にSURIMIとして売っていると面白い。
散々悩みまくって、探しまくって、そろそろ不審者になるから決めようと思ったときにはもう1時間近くが経っていた。狂気的というか、もはやアホ。夜食べに出歩くのはダルいから絶対ここで買おうとは思っていたけど、まさかこんなに時間を費やすとは。
旅の序盤で、息子と母親のペアと思っていた巡礼者の男女(多分夫婦)がいた。奥さんの方は現地の市民のようにかなりラフな格好をしていたけど。
帰り道に思ったのだが、今日は現地在住のアジア系の人をよく見かける。多分中華系だろう。
何度か通ったこの広場も見納めかな。
ってか右手首が痛い。悪化してないかこれ。利き手だからか?
結局買ったパスタサラダ的な何かは、温めなくても問題はなかったけど、麺も野菜もドレッシングも、美味しい要素が一つもなかった。冷たくていいからチキンでも引き裂いて混ぜたいと思った。 特別不味いというわけではなかったんだけど。
抹茶ラテはどこかで飲んだことあるが味だった。スイーツの方はフランスとかスペインとかこの辺りでよく好まれている物なのだろう。タルト等もこんなのが多い。スイートポテトではなかった。
チョコは食べる前から返品したかった。溶けるだろうなと思いつつ買うのを我慢できなかった。結局食べてみたが、中がボールになってるタイプで、味はあまり美味しくなかった。輪ゴムがあるから仕舞っておこう。減らなさそうだけど。
テレビのリモコンを押したら扇風機が回り始めて笑った。
復帰後最初に会う知り合いは誰かな。
シャワーの状態は悪化していたというか、最悪で、お湯が全然出なかった。まさかホテル滞在で冷たいシャワーを浴びなきゃいけないとは微塵も想像していなかった。しかもこんなデカい街で。
まったくの水ではないけど、ぬるさに憧れている冷たさ、みたいな水温で、体にかけるときは息を止めて気合いを入れてかけた。
スペインはもっと頑張ろう。独立運動やデモもいいけど、温かいシャワーをいつでも浴びられるというのを目指すのも悪くないと思うぞ。いや、本気で頑張ってほしい。料理やシエスタはもう別にそのままでいいから。うん。
まあ、そんな事情を抱えている国なんて腐るほどあるだろうし、まだマシな方ってのは間違いないんだけど。
でもこの冷たいシャワーのおかげで、今日は汗をあまりかいてないから洗うのもったいないな…と思っていた同じ下着をすんなりと着られた。何より先にまず着る物を…と震えていたので、そこまで気にならなかった。ひどい話だけど。
そういえば、なんで歩こうと思ったのかえりこさんに聞いていなかった。明日会うかな。どうだろう。
今日は早めに寝よう。普通に日差しが部屋に入り込んでいるから、寝られるかはわからないけど…と不安を抱えながらも8時前に目を閉じた。
だが10時前に目が覚めて、違う…と失望した。まだ空も完全に暗くなっていないじゃないか。
ただでさえ痛みのある右手に虫刺されを見つけた。呪われてるやん。ただの蚊だといいけどな。
それからはなかなか眠れなかった。6kmじゃ疲れが足りないのかな。温かいシャワーも浴びられていないし。
どうせすぐには寝付けないのはわかっていたから、水を飲んだり、スマホをいじりながら1時間ちょっと過ごした。
そしてやっと外が暗くなった。この数日で疲労は幾分は取れたと思う。起きればカミーノの日々が再開する。