5月18日。
5時前に携帯が床に落ちて起きてしまい、4時間程の睡眠になってしまった。6時半になると誰かと誰かのアラームが鳴ったので顔を洗いに行ったが、戻ってきてもほとんど誰も起きていなかった。昨晩のシャワー事件以降に部屋に戻った人たちは全滅だ。このフィステーラが最終地点の人が少なくないからだろう。
昨晩一緒にいた人たちも、同じくムシアに向かうというふざけたキャラのスキンヘッドチュピートおじさんを除けばみんなフィニッシュっぽかったし。まあ、ぼちぼち起き始めたけども。
ワセリンを塗ったり、五本指ソックスやスパッツを履くのも今日が最後だ。宿の主人であるハビエルが乗り気じゃない友人たちを説得してくれたと思おう。
7時前にシンが起きて膝をポンッと叩くのが見えた。自分の足はわりかし状態は良さそうだが2人はどうかな。そのシンが足にクリームを塗っているときに、Walkerとして最後の日だねと声を掛けた。
ベッドの上からは日本語で「歩くの?」という質問が来た。 「バス使いたいんでしょ!知ってるよ」「歩くよ!」「足痛いんでしょ!知ってるよ」 シン(が部屋を出ていった方向)を指差して、彼はどんな様子?と聞いてきたので「歩く気満々だよ、一番乗せられてるから」と教えてあげた。
イタリア人夫婦からGood morningと挨拶されて、Buon giorno!と返したら、奥さんにも旦那さんにも可愛い子だね~~!!ってな感じで肩をなでなでされた。(旦那さんは昨晩えりこさんのイタリア語下ネタに苦笑いしていた人。奥さんはあの場にはいなかった)
7時半過ぎに1階に下りると、昨日と同じようにお香を焚いていた。証明書を貰った建物内に貼ってあった四国遍路のポスターを写真に撮るのを忘れていたことをふと思い出した。
そしてフィステーラゲームオーバーTシャツを探すのも忘れていたことにも気付いた。でも昨日はGalician Literature Dayというガリシア地方の祝日で店が閉まりまくってたから仕方ない。
一旦外に出て、ストレッチをしているときに「もしここに泊まってなかったら今日歩いてないでしょ?」とシンに聞くと「そう、あなたがいなかったらね」と言ったので、誰に話してるんだと後ろを振り返ると、ハビエルの姿があった。
ドネーション制の朝食はハビエルができたてパンをパン屋さんから買ってくるというスタイルだったので準備に時間こそ掛かったが、シナモンジンジャーで体は温まったし、問題ないさ。
一緒にテーブルに着いていた綺麗なお姉さんも今日ムシアへ行くということがわかった。ロシア女性はフィステーラに数日滞在してから向かうと。フィステーラが先の人も普通にいるんだなと安堵した。
バスの時間を知りたいというイタリア人のおばちゃんがいて、ハビエルが誰か知らないかい?と探していたので、自分がバスの時刻表(を写した画面)を見せてあげると、彼女はそれをスマホで撮影していた。
出発前、見送ろうとしてくれているハビエルに、ムシア方向への目印がどこにあるかを聞いた。
夜に寂しい想いをするのも、朝になれば気持ちが切り替わっているのも、自分にとってはよくあること。宿自体は人情味溢れる素敵なアルベルゲだった。
楽しかった!!と実際にメモも残していたけど、ここまでに書いた内容ではその楽しさが充分に伝わっていないだろう。でも心から楽しいと思える滞在だった。きっとそれはオスピタレロのハビエルの人柄のおかげだ。
顔とかあれだからあれだけど、えりこさんの提案で撮ったハビエル+3人の写真。カミーノの楽しさが蘇る素敵な1枚だから貼っとく。
さあ、最終日だ。
バカンスを知らない日本人にはなかなかできない過ごし方ではあるが、フィステーラやムシアで1週間ほど過ごそうと思うという人たちとこれまでに何人か会った。海が見える位置に停めたキャンピングカーでの滞在もきっと楽しいだろう。
後ろからは本当にこの道でいいのー?といった言葉が飛んでいたが、先頭を歩きながらTrust me!と言い張って歩き続けていた。
はい、ありました。ムシアへのマイルストーン。どやっ。
どうやら地名だけで、距離は教えてくれないらしい。別にいいけど。
さよならフィステーラ。
今日は今日とて良き道。3人の距離はほとんど離れずに、楽しくお喋りしながら、笑いながら、進んだ。
歩きながらストックを回転させて遊んでいたら落とすの巻。撮っていたシンは爆笑していた。
そのシンについて面白かったのが、香港ではクロワッサンのことをカカカッペと呼ぶらしく、日本人2人は、え?wwwかかかっぺ?wwwとその間抜けな呼び名に笑った。
同じ道をフィステーラとムシアで逆方向に進むはずだが、こうしてムシアへのサインが続いているということは、フィステーラからムシアに向かう方が正規ルートなのかもしれない。(出発地点で貰ったアルベルゲリストは先にムシア、日本のガイドブックは先にフィステーラが載っていた)
平坦な道ばかりでなく、こうした登りもあった。でも2人とも体の状態はそんなに悪くなさそうで一安心。
経由する町までは6.6km、約1時間半。(えりこさんのポケットWi-Fiを使わせてもらい、自分が調べて情報を提供するwin-winの関係)
2人がそうしようと考えていたように、バスで移動する人もいるからだろう。道で出会う人は少なかった。
だがこの時間ですれ違う人も数人いた。ムシアを出てこの時間では早すぎるので、途中の村にでも滞在していたのだろう。
特にえりこさんが驚いていた、香港でシンがミルクティーを飲みまくっているという話を再びしたが、全然見ないけどミルクティーってこっちで飲めるかな?と言ってから、あ!Té con leche(ミルク入り紅茶)だ!と自己解決した。
ちょっとした飲み物も置かれている、お接待的な手作り休憩所だった。
扉が開いているのを初めて見た高床式倉庫。無駄に吠える右の番犬。キットカットをえりこさんと分けて自分も食べたこと。それぞれの写真から想起する断片的な記憶の数々。
この日はこうした木漏れ日が差す林の中を通り抜けるような場所がいくつかあって、それがとても印象に残っている。
基本的にえりこさんと一緒に歩いていたので日本語で会話をしつつ、時折シンと近付いたら英語でというスタイルだった。会話の内容の多くはメモに残していないが、ありとあらゆる話題があったのは覚えている。
大西洋をバックにした高床式倉庫。いかにもガリシア的な光景だ。
おっちゃん3人グループとすれ違った。
Liresからムシアまでは16kmみたいだ。まだまだ先は長い。
左は海沿いの道らしいが、海がまったく見えないわけでもなかったし、距離が伸びそうだし、右の道を選んだ。(しっかりと読んでいなかったがガイドブックにはすべての分岐で右を選ぶことと書いてあった)
たまに現れる小さな村を通り抜ける。
こうした普通の民家に飾られてあるちょっとしたプランターなんかも素敵だったし、写真に収めておいてよかったと思う。
今日はほとんど見かけていなかった同方向に進む人たちを発見。
ここがLiresという町。
カフェに寄らないとなーと思っていたら、この芝生の場所にスタンプがあるらしいので、寄ってみた。
お日様の香りがしそうなシーツ。柔軟剤入り洗剤のCMに使えそうな光景だ。
押させていただきました。ありがとうございます。
でも休憩もしたいのでカフェにも行く。いくつかあるようだが。
登った先にあるようなので登るしかない。
そしてこちらにカフェがあった。時刻は11時半。久しぶりに人間が集まっているのを見た。
美少女同級生の綺麗なお母さんってな風貌の女性店員がとても優しく対応してくれて嬉しかった。スタンプも2種類くれたし。
この休憩中に「今朝さ、靴が綺麗になってなかった?」とえりこさんから聞かれた。自分は気付いていなかったが、宿の靴箱に置いていた泥だらけの靴が綺麗になっている気がするという話だった。彼女曰く、多分ハビエルがブラッシングしてくれたんだと思うとのこと。言われてみれば確かに綺麗になっている気がした。なんて素敵な宿なんだ…。
3,40分ほど休憩して再出発した。
田舎町の庭で雑談するおじいちゃんおばあちゃんたちの姿には和まされる。オラ!って元気よく挨拶すれば返ってくるし。でもこういうやり取りができるのも残り15kmほどだ。
実は休憩前にえりこさんは少し辛そうだったのだが、先程の休憩で元気が回復したようでよかった。
多分ハビエルが言っていた川の水の中を歩いて渡ったというのはこの場所だ。今は頑丈な橋が架けられているが、少し時間を置いてからそう思ったし、ガイドブックにも書かれていた。でも2人にここだと思うよと教えてあげたかったな。
LOVE WINSという落書きは旅の終盤辺りから幾度となく見かけた。また、この写真のようにフィステーラを指したマイルストーンもあることはあった。
(2人の分もクリアファイルに入れて、バックパックのプロテクターの内側のスペースで自分が保管していたので)証明書持ってくれてありがとうとえりこさんに感謝された。卒業証書を入れる筒みたいな何か買おうかなと話していたら、小動物の死骸を見つけてしまった。シンは立ちション離脱するし。
3人でいるときはタクシーやバスネタでも沢山笑ったな。全部歩いたからこそネタにできた。交通機関を使っていたら後ろめたさを感じただろうし。
誰がためにミステリーサークルは作られる。
木陰で涼しい風が吹くのは最高に気持ちいいのである。
あと11kmか。(Wi-Fiは使わないとき以外は切ってるのでご安心ください。そっちのタイプの人間です。)
イングランド人のおばちゃんに、あなたたちはどこから?と話しかけられて、日本だと答えると、ジャパンには40日歩く道があるんでしょ?と聞かれた。遍路のことだな。彼女は山登りがあることも知っていて、こっちよりキツい?じゃあわたしには無理だわ、とあっさり言うので笑ってしまった。
もののけ姫に出てきそうな顔をしている羊。
シンのかかかっぺネタはえりこさんのツボに入っていて、自分がかかかっぺと発言するたびに苦しくなるくらい笑っていた。シンが言わなきゃよかった…みたいな恥ずかそうな表情をしていたのがまた面白さに拍車を掛ける。
風車は意図的に回していないのか、風が足りないのか、一基もぴくりとも回っていなかった。えりこさんは巨神兵みたいと呟き、そこからジブリ占いの話になってナウシカだったと教えてくれた。(自分はハクでしたこんにちは)
右足のふくらはぎに疲労を感じる。でも900km歩いてきたんだ。感じない方がおかしい。
今まで1人で1回も歩いてないんだからとゆみこさんに促され、今日ムシアまではのりさんだけ歩いているらしい。自分たちより随分先に出発したようだが。
昨日の宿はよかった、ありがとう、とまた感謝された。受付時の騒々しさにイラっとしたのは自分と同じらしいが、でも感謝されるくらい良いと感じたなら、こちらも嬉しい。
落ち込みはしただろうけど、彼女にとって(バックパックを肩代わりした日のように)特別で、濃いエピソードの一つになっただろうし、それを間近で見ていた自分も感慨深いものがあった。落ち込んでいる人がいて、その人に優しく接する人がいて、その優しさに触れて救われる様子がはっきりと伝わってきたから。
この旅でイタリア人はうるさいだけと思っていたのが、再会時などに心から喜ぶイタリア人同士の姿を見て、オーバーリアクションも悪くないと思うようになったと言っていた。うん、きっと愛情深い民族なんだろう。
パーカーをバックパックの中に入れてからは貝殻が鳴る音がたまに聞こえていた。自分の歩調に合わせて、からんころんと。
平坦な道より登りが得意なので、登りの道になって後ろから近付いてきたシンについて「良い香港人に出会ったよね」とえりこさんは言った。「うん、紳士だし優しいし真面目」と返すと、「一人っ子なのに」と一人っ子のえりこさんが言っていた。
以前、富士山に登りたいから日本に行きたいとシンが話すと、のりさんとゆみこさんが一緒に登ろうと彼を誘ったらしい。でもシンは一人で登るのが好きなタイプだから、夜中に年配者2人が寝た頃に、何も言わずに登っても大丈夫だろうか、とえりこさんの元にわざわざ相談しに来たらしい。いいよ、東京に来たらご飯食べるくらいでとフォローしてあげたとのこと。
本当に真面目な好青年だと思う。年上からのお誘いってどうしても断りづらいけど、(外国人なら特に)普通に社交辞令と捉えて何も気にせず一人で登る人が大半だと思うが、真面目だから悩んだんだろうな。
残すところあと1時間、5km。
2人のうちのどちらかがどこかで手に入れた『今日の道中に滝がある』という情報はガセだったか、もしくは見逃した。自分は正直信じてなかったんだけど、多分『地球平面説が一般的だった頃に、世界の果てには滝があると信じられていた』とかそういう話から繋がった誤情報ではなかろうか。
まあ、真相はわかんないけど、その情報が、2人がもう1日歩く動機になっただろうし、日本人2人でシンに仕掛けた「滝綺麗だったね~!」「え?あったの!?」「嘘だよ!!」というイタズラのネタにもなったから良しとしよう。
減っていく残りの距離。シンも追いついたので、この辺りからは3人一緒にゴールを目指した。
牛がチラリ。
やたらとスリスリしてくる猫だった。
すぐそこに迫ってきたゴールに気持ちが昂ぶっていたのか、写真を撮っていて遅れたので前の2人に追いつこうと軽く走ったら、ここの坂道でズルッと滑って危うく転倒するところだった。ドジっ子末っ子ちゃんかな!?シンからは「Baka!」とdisられ、えりこさんは「びっくりしたー!」と。
残り2km。今度はえりこさんが道を間違えそうになって「彼女はカミーノが恋しくて5km歩きたいみたい」とシンに言った。
14時40分、海の香りがしてきた。
美しいビーチだ。
おういぇ。
ムシアまであともう少し pic.twitter.com/VqE9NfrdPR
— 末宗凌 (@SuemuneRyo) 2018年12月11日
風の影響が尋常ではなさそうなサッカーグラウンドこそあったが、この先に町があるのか不安になるくらいには何もなかった。
風が強かったのでえりこさんが後ろについた。風除け風除けぇ!
残り1kmになってようやく町が見えてきた。フィステーラのように灯台や0kmマイルストーンがあるかな。
町は近付いているが宿泊するのはアルベルゲではないので、夜も朝も時間を気にしなくていいという事実。「B&B考えたの誰!?」「はーい!!」「ジーニアス…」
ムシア!!!!(パンプローナ…?とふざけて言ったら後ろの2人は爆笑してくれました。ありがとうございます)
バスもおつかれ!!!
そして、目的地だったバルに到着して、歩きの全行程を終えた。到着時刻は15時3分だった。
B&Bの鍵を渡しに来てくれるローラという女性は16時にこのバルに来るとのことだったので、1時間ほどのんびり過ごすことに。到着記念の乾杯の風景。
タパスが美味しかった。
2人が煙草を吸うので外の席に移動すると、自分たちの1週間前にスタートしたという韓国人のおばちゃんが通りかかった。仕事で行き来していたから日本語が少しできるとのことで少し話したが、別れ際に「チャルガヨ!(さよなら)」と言ったら(今までの韓国人は全員喜んでくれたのに)、目上の人には違う言葉の方がいいと指摘されて、いいじゃねーか別に…そこまでこだわってないわ…と思いながらその言葉を復唱した。
彼女が去った後に(チャルガヨよりもっとフランクなチャルガという言葉もあるらしいのに)、こんな場でわざわざ指摘するかね…?ってな表情でえりこさんと顔を見合わせた。
日陰が寒くて、温かい飲み物が欲しいな…と呟いたら、シンがチョコラテ!? と言って、自分がトイレに行っている間に買ってきてくれていた。2人が味見した後だったけど。
まずチョコラテがあったということに、そして完璧な味でめちゃくちゃ美味しかったことに驚いた。後でお金は払うよとシンに言ったら「必要ない、今夜ウォッカを飲めばいいから」と言うので、吐くよ!と返したら、「2つバスルームがあるみたいだから、片方はクリーンに使って、片方はリオが吐くように使おう」と言うので3人で爆笑した。
歩き終わって日向ぼっこをする2人の姿。本当に、お疲れ様でした。終わったということにまだ現実味は感じられないけど。
ローラ(簡単な通訳兼案内人的な存在)とB&Bの家情報に顔写真が載っていたおばちゃん(家の持ち主)が来て、一緒にその物件へと向かった。
えりこさんやっぱりすごいわ…と脱帽したのは、片言だとはいえ、大学で学んだスペイン語を使って、しっかりコミュニケーションを取ろうとしていたから。
着いた先は予想していた一軒家ではなく、アパートだったが問題はなし。みんな大はしゃぎだったけど、いつもそんなに騒がないシンが一番ギャップがあったかもしれない。香港の家よりでけえよ!!!って。入浴中は音楽に合わせて歌っていて微笑ましかった。
部屋決めはまず1人部屋と2人部屋のじゃんけんに負けて、2人部屋の大きいベッドと小さいベッドの勝負にも負けて、小さなベッドになった。別にどこでもいいけどぉ!?!?
窓を開けると(小山はあるが)オーシャンビューだった。ここで海を見ながらぼーっとしていたら、ああ、終わったんだなとようやく実感できた。
ここは夜に3人で集まっていた部屋。
えりこさんが勝ち取った一人部屋。アルベルゲでの共同生活でそこらの感覚は完全に麻痺ってるけど、まあ、この組み合わせだと女性が1人部屋の方が自然なので、結果オーライでしょう。2人部屋の方も含めて年功序列みたいになったし。
シャワーを浴びてから、お湯を張ったバスタブに浸かるというスタイルの入浴法だったが、浴槽に浸かること自体久しぶりなのに、ヨーロッパサイズと大きな物だったので、もう優勝でしかなかったし、昇天しそうなくらい気持ちよかった。もしかしたら一度逝って、帰ってきたのかもしれない。
えりこさんもIt’s so perfect!と叫んでいたし、彼女もまた音楽を流しながら入浴していた。
お風呂上がりにアルベルゲとは大違いのベッドに寝転がるのもまた最高の気分だった。日常生活で考えればそんなの普通のことだけど、ありえないくらい長い距離を歩いてきたからこそ味わえる幸福感だった。きっと体験した人間しかわからないだろう。
軽く旅を振り返ってみたが、特に怪我なく終えられたことが何よりだと思う。最初は肩だったり、持参したマメに痛みはあったが、マメが固まって以降はスムーズに歩けた。うん、多分そうだったよな。どうだったっけ。もう随分と昔のことのように感じて、はっきりと思い出せない。
歩き終えたので、携帯の切りまくっていたアプリの通知をいくつかオンにした。それだけでも笑顔になってしまう。歩き終えたんだ。
シンは午後6時に起きると言い残し寝て、自分もウトウトとしていたけど、えりこさんがお風呂から上がって化粧水だとかの女の子タイムが終わると部屋に来たので起きた。シンはバシンッ!!と豪快に叩き起こされていた。買い出し行くよ!!と。
そして外れるアパート入り口のドアノブ。
歩きながら「最高の気分だ…」と自分が呟くと、えりこさんは「勝ち組の気分!」と。「いや、超勝ち組の気分だよ!」バスで来て、アルベルゲに泊まる人より…。「うふふふ…」「うふふふふ…」
スーパーのエロスキ。エロスキ…。うふふふ…。
セレブレーションデイなので買いまくりました。
大量購入の自分たちのレジカゴは溢れんばかりだったので、後ろにいた巡礼者の男性がビール2つだけだから先にいい?と聞いてきたので譲った。自分たちと同じく今日歩き終わった30代くらいの男性で「君たちのところはキッチンがあるんだね、ラッキーだ」と言っていた。まあ、アルベルゲじゃないけどね…(照)
その彼が帰り道に迷っていたのですぐにまた会った。アラスカ出身オハイオ在住の人で、相手からもどこからかを質問されたのに、えりこさんの後の自分は「君はいかにも日本人に見えるからわかる」とのことだった。どうも、日本人です。
調理は2人が担当するとのことだったので、自分はテーブルコーディネート()とお迎えと洗い物を任された。
はい、Pro。
それからアパートを出て、のりさんとゆみこさんの2人を待っていたが、間違えて他のマンションに行っていたらしく少し時間は掛かった。問題ないけどね。
到着してからもまだ料理はできあがっていなかったので、2人のお喋り相手にもなっていた。写真はのりさんが見せてくれたムシアの地図。
これがディナーの様子(もさって酷い髪型だ…)。カミーノを終えて、積もる話は積もって部屋が埋まるくらいあったので、それはもう沢山の話をした。
でも19日に再会しようってことになっていたけど、昨日も今日もみんなで会っていて笑う。バスで移動したのりさんゆみこさんがこちらに合わせたからだろうだけど。
最高の料理を作ってくれた若者2人に感謝だ。実質MVPだけど自分はハムをちぎってサラダに入れたくらいだし。
これからの予定を話していたら、のりさんも自分と同じく21日の午前7時台サンティアゴ発マドリード行きの列車を予約していることがわかった。今後の予約はほとんどしていなかったえりこさんには、マドリードまで連れてってと頼まれたのでチェックしてみたが、自分が予約している便はRenfe(日本でいうJR)の公式サイトではフルになっていた。他の便では一応空席はあったが、そもそも直行便は1日2便しかないし、ヨーロッパの鉄道は予約する日が早ければ早いほど安くなる仕組みなので値段もそこそこ高かった。(自分は出発前に予約・購入していた)
1人でディナーは嫌とのことで、宿も一緒でいいと言っていたけど、自分のマドリードのホステルも埋まっているみたいで、どうしようもないのかこれは…と困った。ここまで一緒に楽しく過ごしていたわけだから、マドリードも一緒に行けるのが一番だが、どうすればいいのか。
えりシンが空になったワインを買い足しに行ったので、洗い物をしようとキッチンに移動したら、わたしがしますとゆみこさんも来た。いや、僕がやりますよ!座っててください!と断ったものの、いいの!わたしにやらせて!と強い意志を感じたので折れた。
でもその場から離れるわけにもいかないので、洗い物をする彼女の横でお話ししながらという形になった。
兄弟はいる?と聞かれて妹がいますと答えると、だから女の子に動じないのねと。どうしたらこんなふわふわした感じの子になるんだろうと思っていたとも言われたが、どうやら僕はふわふわ系男子だったようです。パンケーキたべry
これから自分が行くアルハンブラ宮殿が今までの人生で一番衝撃的だったという話もしてくれた。40年前にツアーで行ったらしい。歩きのことばっかりで先のことは全然考えていなかったけど、なんだかちょっと観光が楽しみになった。
購入していたレモンシャーベットを注ぎ分ける適当な小皿が2つしかなくて、みんなの分は用意できなかったけど、とりあえずのりさんに出した。
そして若い2人が戻ってきて、旅を振り返ってどうだったかというような話を改めてした。自分は(過去の歩き旅の経験から)半年後とかに振り返ると、痛みや辛さはどこかに行ってしまうから、きっと楽しさばかりに包まれていると思いますと言った。
写真はえりこさんに「見て見て、ゲームボーイあるよ」と教えてもらったクローゼットの中。
ルーニー・チューンズはそこまで日本人に馴染みはないが、
ポケモン銀は知らない人の方が少ないだろう。20代だと特に。
のりさんとゆみこさんが帰った後はもちろん3人で過ごした。ソファがある部屋でずっと。えりこさんがiPhoneで音楽を流していたんだけど、さすが元カフェ店員ってなだけはあって()、落ち着いたオシャレな曲を流していて雰囲気を演出してくれていた。
先程はシャワーだけだったシンがお風呂に行っている間、えりこさんと話した。どうだった?カミーノと。
サンティアゴの前(歓喜の丘)で3人で行動し始めてからは特に「本当に楽しかった。ありがとう」と真剣な眼差しとトーンで感謝の言葉を伝えられて、いやいや、こちらこそ。と照れ臭さを感じながらもお礼を返したが、胸がジーンと来て、涙が溢れそうだった。
終盤の3人での時間のように、誰かと一緒に楽しむ・喜びを分かち合う、というのがえりこさんの求めていたものだったらしい。だから、求めていたものを本当に手に入れられたと。
普段こんな風に心からのありがとうを言われることなんて滅多にあることじゃないし、自分の方こそ、めちゃくちゃ楽しかった時間を一緒に過ごしてくれた彼女に心から感謝しているので、こちらこそありがとうという気持ちだった。だから、彼女も同じ気持ちだったんだということを知って、泣きそうになるのを堪えるのに必死だった。酔っぱらい相手なのに。
歩くのは当然疲れるし、旅を通して寂しい想いをすることもあったけど、最後のこの一週間はもう、かけがえのない時間になった。3人でくだらないことで数えきれないくらい笑い合ったし、一緒に歩くことで疲労も忘れるようだった。
りょうがいなかったら〜と言われたけど、でもシンも絶対必要だったと思う。彼の素敵な人柄も当然あるが、自分は一服だとかに付き合えないし、一人で飲んでいてもつまんないだろうし、彼は体のことにも詳しいから的確なアドバイスをもらったこともあるだろう。
誰とでもこんな風に楽しめるわけではなかったはずだ。好きになれる要素がそれぞれにあったということだろうし、2人の人間性に不快な想いをすることもなかった(2人にとって自分もそうであってほしいが)。
あまり遠慮をせずに接して、ストレスを感じない相手というのは、まさに親友のそれだろう。出会ってからこんなにすぐに打ち解けられた理由というのが必ずあるはずだが、でも言葉で説明するのはきっと難しい。
道中で出会った人とサンティアゴに一緒のタイミングでゴールをするというのは、旅の性質上決して珍しいことではないだろうが、ここまで深く繋がられた仲間と、サンティアゴまででなく、フィステーラやムシアまでも一緒に歩いて来られたということは間違いなく特別なことだ。
「みんなに起こりうることじゃないよね」とえりこさんも言っていたが、その通りだと思う。自分もそういう期間があったように、一人で歩いている人も沢山いる。誰かと一緒に行動はしていても、本心ではそこまで好きではない、ビジネスライクならぬカミーノライクな関係性の人たちもいるだろう。
比べるようなものではないけれど、こんな最高な形でゴールできた人がどれだけいるだろうか。それを考えると自分が恵まれた幸せ者なんだと気付く。自分自身ですらこんなフィナーレが待っているなんて想像していなかった。
終わりよければすべてよし、という言葉ではないけれど、すべての嫌な部分を帳消しにしてくれるくらいの楽しさが、自分のカミーノには待っていた。それは、えりこさんとシンという2人のおかげなんだ。
また、えりこさんはゆみこさんとのりさんのことがずっと気になっていたらしい。いつも支払ってもらったりだとか、何か貰ってばかりだったからと。そういった気懸かりを彼女は抱えていたので、今晩のディナーでおもてなしができてよかった、と言っていた。
それでも、感謝を伝えきれてないけど…と呟く彼女に、全部伝わったと思うよ、と自分は言った。うん、彼女はちゃんと恩を返しきったと思う。彼女のカミーノペアレンツの嬉しそうな表情を見れば、それは充分に伝わってきた。
山だか岩だかに登れば、印象的な景色が見られるみたいなので、そこへ夜景を見に行こうと考えていたけど、もういいや、と思った。
ここからの夜景で充分だ。胸いっぱいのあたたかい気持ちで見た景色は、これ以上は存在しないと思えるほどに綺麗だったから。
サンティアゴからこちらへ歩いてきているであろうそのこちゃんに、証明書を貰うには途中の町でスタンプをもらう必要があるよといった情報を教えるためにLINEをしたら、彼女は明日ムシアに到着予定で、それからフィステーラへ向かうということがわかった。
彼女からもサンティアゴの証明書は1時間半並ぶだとか、そのタイミングで筒を買うことになるけど店で買えば1€だよといった情報を教えてくれた。
リーとのツーショット写真を載せて、巡礼お疲れ様でした!という労いの言葉を掛けてくれたが、その2人は自分のカミーノの前半を彩ってくれた存在だ。可愛いと思うというか、とても愛しく感じた。そのこちゃんたちもまた、自分に出会ってくれてありがとうだ。明日は多分入れ違う形になるだろうけど、あと2日頑張って…!
もう一回お風呂入りなよとえりこさんから何度も勧められてはいたが、もう満足だよと断っていた。でも結局二度目の入浴をしたら、とても気持ちよかった。彼女が正解だった。
長い夜の中で、4つ部屋あるのに1つの部屋に集まってるねと、えりこさんがふと呟いた。写真を見せ合ったり、AirDropで交換しながら、思い出を共有するのも何度目かな。一緒に歩いているから似たような景色の写真ばかりになるんだけど。
でも今夜は寝ない!宣言をしていたのに酔っ払って眠るえりこさん。
それから彼女はまた起きたりはしていたが、歩かない明日を気にせずに飲みまくった結果ほぼ泥酔状態だったので、そのへべれけな様子がとても面白かった。
スマートにきちんと写ってくれない月。実際の自分の目には見えていたけど。
足に水膨れができていることに気付いたが適当に処理をした。もう自分だって歩かないから。
ワインをまだ飲んでいるシンに、ベッドに行くねと告げると、早く済ませるよと返ってきたので「ゆっくりで構わないよ、もう僕らは歩く必要もなければ、寝る必要もないんだから」と言うと「Yes, バスで寝られる」と。そう、明日はバスでサンティアゴへ戻る。
いつものようにメモはまとめきれていないけど、午前1時半に寝ることにした。
歩き終えたことには違いないが、まだヨーロッパ滞在は続くので、様々なことがこれからどうなるかはわからない。とりあえず明日もやることはいっぱいだ。
(歩きはこの日で終わりだけどサンティアゴで証明書を貰う日まで「サンティアゴ巡礼」として書きます)
今日の歩み
Fisterra – Muxía / 28km