三大巡礼路の比較【熊野古道・四国遍路・サンティアゴ巡礼】

思いがけず巡礼の道を歩く20代前半が待っていたので、その巡礼路とやらをいくつか歩き旅してきたわけだけど、自分がそういう旅を経験してきたと知った人たちからよくされる質問があって、それは「どこが一番良かった?」「どの道がおすすめ?」という類の質問。
でもその質問に答えるのは難しい。なぜかというと、それぞれの道に違った特徴・魅力があるから。だからそう聞かれても「何を取るかによるかな…」としか答えられないし、自分自身の本音を探ろうとしても、それぞれの旅での素敵な想い出たちが順位付けという作業を邪魔する。

三大巡礼路というのは神道・仏教・キリスト教からそれぞれ一つずつ自分が勝手に選出して名付けたもの。
世界から選んだ3大のくせになんで日本から2つも入ってんだ?小野小町かよ!とツッコミを入れたくなる人もいるだろうけど、自分が歩きたいと願っていた3つの巡礼路でもあるし、個人的体験を語る上での選考でもあるので悪しからず。
確かに巡礼者の人数や規模から考えるとイスラム教のメッカ巡礼だとかが選ばれるべきなんだろうけど、重要視したのは“誰にでも開かれている”ということ。「あなたは異教徒なので歩けません」ってなっちゃうと、興味を抱いても抱くだけで終わって虚しいしね。
でも世界的評価という意味でも決して悪くはない3つだと思う。現に道として世界遺産に登録されているのは熊野古道とカミーノ(サンティアゴ巡礼)の2つだけだし、お遍路もその2つに肩を並べる要素は間違いなくあるから。だから、この3つが世界的巡礼路といっても決して過言ではないはず。もう異論は受け付けない。

熊野古道(熊野詣)は伊勢路(伊勢参り)と中辺路一部を歩いた経験から。
四国遍路はその名の通りお遍路のこと。四国八十八箇所の通し打ち(一度ですべてを巡ること)から。
サンティアゴ巡礼(別名サンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路、カミーノ、スペイン巡礼)はフランス人の道から。
同じ巡礼路でもルートが違えば、細かい部分での違いも多少は生まれてくると思うが、特定の聖地に向かったりと本質的な部分はそう大きく変わらないので、あまり気にしない方向で。

それでは、様々な観点から三大巡礼路を比較していきます。三大巡礼路を。

道の美しさ・トレッキング満足度

熊野古道 > カミーノ > お遍路

どの巡礼路も基本的に人が来る道は整備されていて、悪路は(悪天候時を除き)ほとんど存在しないので、道自体に不快な想いをすることは少ない。
ただ、景観を含めた道の美しさとなると、苔むした石畳を歩く古道がやはり強い。また他の道と比べると人が少ないので、美しい光景を独り占めできる可能性も高い。

お遍路の道は大半は日本の田舎の道路といった感じ。良く言えば落ち着くが、悪く言うと味気がない。(熊野古道も古道以外の道はそうだが)

カミーノもヨーロッパの田舎道であることは間違いないけど、日本人にとってはそれが目新しいし、他に何もないような田園風景の中に一本の道がひたすら続いているという光景は悪くない。ただ、最も風景が美しいガリシア地方では畜産系の悪臭が漂っていることが多いのがちょっと残念。

神秘性・スピリチュアル

お遍路 > 熊野古道 > カミーノ

要は旅が持つ雰囲気のことで、どれだけ神秘的な空気を感じられるかが評価点。

88箇所もお寺を巡る遍路は当然多くの時間をお寺の中で過ごすし、八百万の神々への信仰である神道の熊野古道も道すがらそういった雰囲気を感じられる。

逆にその部分が薄いのがカミーノ。道中の教会には基本入れないし、大きな街にしかない大聖堂も他の観光客と同じようにお金を払って入る必要がある(例外はあり)。
でもこの神秘性というものは、その宗教への信仰心と密接な関係にあるだろうし、もちろん不明確なものだから、人によっての違いが大きいかな。

難易度

熊野古道 > カミーノ > お遍路

どれだけ踏破しやすいかで考えるなら熊野古道一択。というのも、まず全長が違いすぎる。(伊勢路160km、フランス人の道800km、遍路1200km)
日々歩くコースで考えても、中辺路だけとなるとハイキング的で難易度も低いし、伊勢路になると山や峠が増えて遍路に匹敵するようなコースもあるんだけど、全部歩いたとしても2週間に満たない行程だし、いろいろ(疲労感、爽快感)と程よい印象かな。

お遍路はね、楽じゃないよ。序盤は高齢者もわりと見かけたけどリタイアで減っていったし、遍路ころがしと呼ばれる難所はもはや修行のそれ。

カミーノは距離こそ長いけどほとんど平坦な道。高齢者も歩いていたし、アルベルゲ(巡礼者向けの宿)からアルベルゲへと荷物を運搬する代行サービスなるものも存在する。
難所と呼ばれる場所も正直大したことはなかった。今日は難所が待っているのか…どんな道なんだろうな…とビビっていても、今日のどこが難所だったの…?と歩き終えて思うこともあったし。

難易度が低ければ誰にとっても歩きやすい。しかし、裏を返せば、難易度が高ければ高いほど達成感(成功体験)は増すもの。どれを取ってもこれは絶対だと決めるのは難しいけど、達成感だけは遍路が断トツだったと言える。

交流

カミーノ > お遍路 > 熊野古道

参加者が多ければ当然交流の機会も増える。一番参加者の多いカミーノで接するのはほとんどが外国人ということになるけど、それゆえフレンドリーな人も多い。また旅自体の雰囲気に厳粛さはないから、毎日お酒を飲むパーティーのような感じ。友情はともかく、恋愛に発展するケースも旅の間何度も見てきた。

ただし英語が話せない場合は遍路が一番ということになるかな。巡礼者の中にはたまに変な人が混ざってるけど、遍路で特筆すべきはやはりお接待。若い人や女性だとより感じられるだろうが、お接待を通じて四国の人たちの温かさに触れるのは本当に感動した。(見知らぬ人だというのに)同じ日本人からあんなに親切にされるなんて普通の生活では絶対にありえないし、あの衝撃は一度は経験しておくべきとさえ思う。今後の人生にも影響を与えるだろうから。

熊野古道も世界遺産ではあるので中辺路を歩いている人は多いけど、距離が短くてあっという間に終わるし、伊勢路に関しては人がほとんどいない。

神秘性や旅の雰囲気にも通じるが、旅をどんな風に過ごしたいのか、が指標になるかな。人の少ない道を静かに歩いて癒やされたいのか、みんなでワイワイ盛り上がりたいのか、といった感じで。

安全性

カミーノ > 熊野古道 > お遍路

これも参加者の多さが理由だが、意外なことに外国のカミーノが一番かもしれない。閑散期は別だけど、カミーノで周囲から人がいなくなることってまずないからね。
男性対策で頭を丸めてきたという女性巡礼者もいたけど、女性の数自体かなり多いので、そこまでする必要はないと思う。
でももちろん用心は必要。変な奴につきまとわれないとも限らないし、トラブルが起きた場合の対処法も外国と日本とでは当然違ってくるから。盗みの被害だとか、交通機関も何もないような場所で怪我をしたらどうするかとか。
トイレ事情もここに書くのなら、公衆トイレなど皆無のカミーノは、ほとんどの参加者が旅の間一度は外で用を足しているといった実情もある。

逆にそれらの面で日本が強いのはコンビニの存在。またトラブルが起こった際も、言ってしまえば日本ならいつでも帰れるし、いざというときは地元の人に助けを求めることもできる。

10代や20代といった若者や一人で参加する女性だと家族が心配したりといった問題もあるだろうけど、まあ、正直100%安全な道など存在しない。どの道を行くにしろ、その手の覚悟は絶対に必要。脅すわけじゃないけど。

宿の満足度

お遍路 > 熊野古道 > カミーノ

シンプルに日本と海外のインフラの差が大きく出る部分であり、おもてなし精神という独特の文化も影響してくる。

カミーノの宿であるアルベルゲは寝袋必須のドミトリールームで、Bed bug(南京虫)にやられて旅の続行を断念せざるを得ない人もいた。衛生面の問題を置いておいても、(日本人からすると信じられないが)シャワーから冷たい水しか出ない宿も少なくない。一日歩き終わって疲れているのに(お金も払ってるのに)そんな仕打ちを食らうと、正直最悪な気分にしかならない。それなのに、アルベルゲに泊まってスタンプを貰わないと歩いた証明にならないというジレンマ。

遍路もカミーノと同じく観光産業が成り立っているが、四国の宿はスペイン以上に充実している。民宿やホテルなどありとあらゆる種類の宿があるし、若者にとってはやはり安価なゲストハウスがあるのが助かる。

熊野古道の伊勢路では実質、民宿一択。ビジネスホテルもあるはあるけど、ビジネスマンが来ないような場所も通るので。振り返ると、熊野古道の民宿は本当に温かい人が多かった。その点は四国以上だったと思う。(宿泊客が多いところはどうしても事務的な対応になる)

遍路の宿坊に泊まればお勤めに、カミーノの教会・修道院併設のアルベルゲではミサなどに参加できたりするメリットがあるということも書いておこう。 

どの道でも野宿はできることはできるけど、地元から黙認されているのは四国だけと考えるべき。お接待の文化として善根宿や通夜堂といった無料で泊まれる場所(設備は野宿よりマシ程度)もあるので、野宿込みの遍路旅はそれらを組み合わせて旅をすることになるだろう。

食事・グルメ

お遍路 > 熊野古道 > カミーノ

四国名物と言えば、讃岐うどんやカツオのたたき、鯛めしといったところかな。それぞれの県の名物がどれも美味しいので、グルメを意識しながら旅しても楽しめるのかもしれない。

和歌山・三重も名物はあることはあるけど、そこまで道中に飲食店があるわけではないし、夜は民宿のお母さんが作ってくれる料理を食べることになるはず。伊勢へと向かうなら最後に赤福が本店で食べられるのは幸せ。

僕は遍路では野宿メインだったので夜もコンビニで買うことが多かったが、コンビニの豊富なメニューから選べるというのも実はありがたいこと。また日本は自販機がどこにでもあるので飲料水の面でも助けられた。

カミーノというかスペインは…なんていうか…最初は新鮮に感じて平気なものでも徐々に飽きてくる。レストランに行ってもだいたいどこも同じ巡礼者向けメニュー(メニュー・デル・ペレグリーノ)だし、美味しくないポテトが大量に出てきたりして、仲間内では食事はもう苦行・ネタ扱いだった。
キッチンがあるアルベルゲでは自炊も可能だけど、スーパーは大きな街以外充実してないし、そもそもキッチンは韓国人がいつも占拠しているので、ストレスなく調理をするのは困難と考えた方がいい。
しかしカミーノには水より安いワインがある。アルコールが苦手な自分のような人には何の意味もないが、毎日ワインを飲めるなら幸せ!という人には天国だろう。

費用

熊野古道 > カミーノ > お遍路

まずは旅に掛かるお金を単純に計算していくとしよう。どの歩き旅でも必要なバックパックやトレッキングシューズなど共通するものは除いて。

アルベルゲの宿泊費は安いので、公営に比べると綺麗なことが多い民営アルベルゲで計算しても10ユーロで約1200円。食事はメニュー・デル・ペレグリーノがだいたい10ユーロなので、朝や昼のカフェ代も含めて+7ユーロにすると、1日で掛かる費用は約3500円。それを40日計算で14万円。日本との往復航空券や鉄道での移動費を加えると約25万円となる。(為替レートが変動していたら計算し直してね)

熊野古道(伊勢路)は現地との往復で1万5000円として、夕朝食付きの民宿が6500円でそれを9泊で6万円、お昼や飲み水代を1万円とすると、約9万円となる。

遍路は旅のバリエーションがありすぎて計算が難しいが、移動費は熊野と同じく1万5000円とする。それから納経代が300円×88カ寺=26,400円で、加えて菅笠や金剛杖、お参りに欠かせない用具などを含めて4万円。すべて民宿に泊まる人はそこまでいないだろうし、素泊まりをすることもあるだろうから5000円計算を40日で20万円。飲食費1日1500円で6万円。合計は約32万円となった。

不等号は合計が安い方へと示しているが、1日に掛かる費用で見ればカミーノが最も安い。しかし野宿をするなら遍路が逆転するといった感じで、条件が変われば掛かる費用も変わっていく。
最長の伊勢路でも10万円を切る熊野古道は良心的。遍路とカミーノの宿は雲泥の差だが、やはり遍路が一番高い。まあ、宿に泊まる歩き遍路が一番贅沢な旅だと聞いたこともあるし、実際にその通りなのだろう。

【追記】2024年に価格改定が行われ、お遍路での納経帳への納経代は300円から500円へと値上がりした。全部回って納経代だけで44,000円は痛い…。
その他にも、昨今の物価高騰で諸々の費用はもう少し余分に見ておいた方が良さそう。嫌な世の中だね。旅の楽しみは変わらないんだけどさ…。


どの旅を選ぶかは結局、何を求めるかによる。交流のところでも書いたことに似ているけど、まあこんな感じ。

  • 美しい古の道や山道を、歴史や趣を感じながら、静かに歩きたい人は熊野古道
  • 地元の人の温かさや他の巡礼者との交流を支えに、困難な道を乗り越えて、特別な感動を体験したい人はお遍路
  • ヨーロッパの田舎道を歩きながら、ワインを楽しみつつ、海外の人とも積極的に交流したい人はカミーノ

さあ、情報は与えた。何を選ぶ。私は好きにした、君らも好きにしろ。
どの道も歩きたいけど、どの順番がいいかな?っていう話なら「熊野→カミーノ→遍路」をお勧めする。まずは歩き旅の経験を積むという意味で中辺路でも歩いて、カミーノで交流の楽しみを知り、遍路で感動をする、みたいな。難易度的にも順になってるし。

複数の巡礼路を行くのではなく同じ道を何度も歩く人もいるし、休みの都合などで一つの道を区切りながら歩く人もいる。
要は、どれも決まり事が少ない自由な旅なので、各々の好きな道を、好きな形で歩けばいい。

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