6月5日。
布団や毛布があるって本当に最高。汗拭きシートではなく入浴してからだとなお快適だけど、でもきちんと寝れる環境というのは体力の回復具合も違うからありがたい。
しかし歩き続けていれば、足中に毎日いろんなマメが増えていく。足以外の部分も疲労が重なれば正常な状態ではなくなっていく。寝起きに感じる疲れや痛みはあまりいいものではない。
でもこれからどんな出会いがあるだろうと思った。朝はいつもポジティブだ。
外の様子を見てレインウェアを着たのに、窓を開けたら降ってないというオチだった。でも降るかもしれないし、荷物まとめたのにまたしまうのも面倒だし、そのまま歩くことにした。
午前6時過ぎに出発。
西分駅近くの自販機で小さめの飲み物を買った。やっぱりここの電車乗ってみたい。
ねこあつめ。
プール。
この時歩きながら考えていたのは、日本の宗教は死の匂い、死者への匂いが強いなということ。
海外の宗教は生きている自分への救いといった要素が強い。贖罪もそれに当てはまる。
仏教は一応海外から渡ってきたものなので救いの要素もあるけれど、土着の神道と習合し独自の発展を遂げた日本の仏教はやはり死者により近付いていると思う。(少なくとも釈迦の教えからはかなり遠い場所にある気がする)
宗教であっても宗教臭くない日本人の宗教観が好きなのかもしれない。いろんな意味で自然だから。
そして今回の僕自身もまた自分の何かではなく、近親者の死に動かされ、死を悼むという行為そのものである旅を続けている。
日本にいながら日本人らしさを感じて、何だか面白いなと思った。
左足のかかとに痛みを感じる。これをかばっていたら次は足首に来そうだと不安が募る。
Oh 高知。Oh 高知。
なんだかシャレてる建物。確かここはレストランで、後に出会う奥田さんという人は、お店の人にパンフレットでもいただけませんか?と頼んだけど、箸袋ならありますが…と言われたらしい。
昨日から長く続いているサイクリングロード。当然サイクリングをしたくなった。海風に吹かれながら走るのはきっと楽しいと思う。歩行者と自転車用の小さなトンネルなんかあったし。
午前7時、数十人の人が集まって日曜朝の清掃活動を行っていた。
それぞれの場所でゴミを拾う前に、皆が集まって行われていた始まりの挨拶のようなものが終わった直後に横を通り挨拶をしたので、返ってきた挨拶の量も大量だった。
それにしても、サイクリングロードと遍路道を共存させるとはまっことおもしろいアイデアよ。
道の駅「やす」に着いた。天気予報も雨から雨のち曇りになっていたのでレインウェアを脱いだ。
ベンチに座って休憩を取っていたら何人かと話すことになった。
若いおばちゃんは生でも食べられるコーンをくれた。多分ここで販売もしている人。
モップをかけていたおばちゃんとも話して、ここに棲みついている猫について教えてもらった。
黒猫の方がくろちゃん、茶トラがもろこしという名前の兄弟で、このときはいなかったけどもう一匹人懐っこい白い猫がいるらしい。2匹は喧嘩に見えるぐらいかなり激しく戯れていた。
おばちゃんいわくブサイク猫らしいけど、人懐こいので可愛がられているように感じた。おばちゃん自身も親しそうに名前を呼んでいたし。
函館から車で来たおじさんも話しかけてくれた。運転も疲れるみたいだ。北海道から高知まで来て、これから九州まで行こうかと迷ってると言っていた。
若いでしょ?と聞かれ、今しかできないよねと彼の言葉が続いた。その通りだと思う。遍路自体は還暦以上の人も沢山いるけど、この僕の旅は完全に若者である今だからこそできる旅。
7時半前の再出発。くろちゃんを撫でたらスリスリと体を寄せてきて、にゃーんと鳴いた。
この町は本当に挨拶を沢山の人がしてくれて、気持ち良かった。良い町だ。なんて良い日だ。
大日寺までは6.4km。
岸本小学校だったかな。歴史ある小学校の統合反対と書かれた看板があった。デリケートな問題ではるけどどこにでもある問題だ。子供が減らなきゃ統合はしなくてもいいだろうから、子供を増やすしかない。
自転車に乗った体操服姿の三つ編みの女子中学生が後ろから追い抜きざまに挨拶をしてくれた。素晴らしい。
花屋の近くにいたおばちゃん集団も清掃をしていた。彼女たちからもまた朝の挨拶をもらった。
約2時間で100人近くと挨拶をした気がする。挨拶運動に力を入れているとしても、ここまで実行するのは難しいはず。香南市の方々のおかげで心から爽やかな気持ちになれた。
小さなエディオンの先の南国バイパスで信号を待っていたら、右に行きな!と離れた場所にいたおばさんが合図をくれた。地図しまいっぱなしで気付かなかったけど、いつの間にか道を曲がり損ねていたみたい。本当にちょうどいいタイミングで教えてもらった。ありがたい。
コインランドリーを見つけて行くべきか迷った。でも高知市街にもあるだろうということでスルー。
旅館かとりの近くで逆打ちのおじさんとすれ違った。遍路姿は目立つから遠くから近付いてくるのがよくわかる。
高知黒潮ホテル付近で明らかにペースが落ちてきたのを感じた。
この辺りは遍路マークがほとんどなかった。ガイドマップやグーグルマップを見て、目的地へ着けるように歩くしかない。
痛み慣れとでも言えばいいのだろうか。疲れでうまく痛みが感じられないような気がした。
しかし大日寺はそろそろかなというところで右足裏に激痛が走った。一瞬だったけど叫び声を上げたくなるような尋常じゃない痛みで驚いた。でも歩くしか選択肢はない。
もうすぐと思いきや、まだ2kmも残っていた。
綺麗な花壇。パンジーは映える。
わりと前から見えていた山の上のお城のような建物。大概はラブホだったりするんだろうけど、歩きながらその建物へと何気に近付いていて、あれが大日寺だったらどうしようなんて思っていませんよ。決して。ええ。
残り1kmからが遠すぎた。絶対6kmはあるこれ…と苦笑いしたくなるような、溜息を吐きたくなるような気持ちで歩いた。
車のドライバーというのも様々な人がいて、横断を待ってくれる人もいれば、待ってくれない人もいた。
歩行者側である自分はできるだけ迷惑を掛けないようにと、まずは自分が譲るために立ち止まって、車が待ってくれている場合は全ての場所で小走りをした。疲れも少しは溜まるだろうけど、でも地元の人が最優先だ。
参道の石柱?はあったけど目印となるマークが全然なくて、世界遺産目指すならあってほしいなあと思ったり思わなかったり。でもそういった点も含めて修行の道場だということもわかっている。
ほぼ休憩なしで約14kmを歩き、午前9時20分過ぎに、第28番札所法界山大日寺へ到着。
お寺に着いたら、なんとメガネの彼(宿へ予約の電話をしていた)と昨日休憩所でも一緒だった彼がいた。どこで知り合ったのかはわからないけど2人も親しげに話していた。
本堂。本尊はお寺の名前でわかるけど、大日如来。
大師堂。
土がないから色合いでそう感じるのかもしれないけど、清潔と形容したくなるお寺。もちろん掃除が行き渡っているからこその清潔感。
納経を3人でしてもらっていたら、その場にいたおばちゃんが話しかけてきて、みなさん逆で回られてるんですか?と質問をしてきた。しかしみんな順打ち。
そのあとそのおばちゃんは住職さんおられますか?と納経をしてくれている方に尋ねて、笑われることをお聞きしますが、南海トラフは必ず来るでしょ?最小限に抑えるには護摩にはなんて書けばよろしいのかしら?的なことを聞いていた。
電車に乗るとはいえ、今日も距離がある。足裏は当然のごとく痛い。
2人は先に出発していたので1人でお寺から出た。でもお寺から少し行ったところで、ほんのちょっと逆方向に進んでいた。早く気付いて良かった。10時頃のこと。
そして、やはり遍路マークは少ない。少し進めばあったはあったけど。
左足首が痛い。疲労が痛みを呼ぶ。
あじさい街道という道が突然現れた。素敵だと思った。こんな道が存在するということ、そんな道に自分がこうして出会えたということが。
電池消費を抑える為にiPhoneの画面の明るさは常に最大限暗くしていたけど、自分が使ってるカメラアプリにはアプリ起動時だけ画面を明るくする機能がある。しかしそれを忘れていた(もしくはその消費すら避けたかった)というドジっ子()がピントが合っているのかどうかもわからずに撮ったあじさい街道がこちら。まあ紫陽花の道ができているのは伝わるよね。うん。うん。
あじさいの市の休憩所兼直売所から出てきたおばちゃんが「ちょっとで悪いけど…」と言いながらコーヒーキャンディを2つくれた。
とうもろこしも売っているのが見えた。調べたところ、日によっては餅つきなんかもするみたい。
物部川に架かる長い橋を渡る。
頭隠して尻隠さずな鳩。
時折現在までの歩行距離や今日の目的地までの距離を確認していた。この時はあと約15キロも歩けるのか…と不安になっていた。疲れと痛みのたった2つに苦しめられる。
ご存知の通り水路が臭い町がたまにある。橋の先の道でのこと。
疲れが溜まっているとはいえ、歩き続けているのになかなか前にいるはずの2人が見えなかった。自分のペースを守らないというのは危険だから、焦らない焦らないと言い聞かせるように歩いたけど、やはり前の人たちに距離を離されるのは嫌だ。
しかし突然、ベンチでもあぜ道でもない本当に田んぼの端っこの場所で腰掛けて休憩している2人を見つけた。休憩所が見つからないからもうそこで休憩を取ることにしたらしい。少し話してから、では、距離稼げるうちに稼いでおきまーす。と追い抜いた。また会いましょ!と。すると眼鏡じゃない方の彼(もう本田似だからポンちゃんにしよう)に、また寝てるやろと言われて笑った。「(この先の)どっかへんな東屋で寝てます 笑」と返した。
いろんな人の”歩き”について知る度、ひかるくんの体力はすごかったんだなあと改めて知ることになる。登りの道はあれだけど、歩きの道はついていけてたから自分も悪くないペースで歩けるのは確かだろう。だから尚更、痛みがなければ…と思う。
11時頃に松本大師堂という小さなお堂兼東屋で休憩を取ることにした。今朝貰ったとうもろこしは新鮮な味がした。先程休憩していた2人からは追い抜かれた。特に会話はしなかったけど、2人とも手を上げてくれた。
休憩しながら今日の洗濯事情のことを考えた。ゲストハウスに洗濯機はあるのだろうかと。ネットで調べてみても書いてなくて、なさそうだから、宿の位置から計算して最寄りで徒歩15分のイオンモールかなー。(疲れ果てた状態では)結構遠いなーと。でも洗濯機あるかもしれないし、コインランドリーは検索に出にくいから、まあ希望は持っておくことに。
11時20分に再出発した。歩き始めてすぐに足の状態から休憩の効果はあまりなかったなと気付いた。疲れは休憩で取れるけど、痛みは取れない場合がある。この時は少しも痛みは引いていなかった。
とりあえず次のお寺への4.2kmの間で2人に追いつきたいと思った。足裏は痛いからどうなるかわからないけど。
田の光景。実りの季節には少々遠い、育みの季節。
東崎公園で休憩中の2人を発見した。それぞれのペースはわかっているので、だいぶ休んだねと言われた。結構休みましたよ。寝てはないけど。と笑いながら返して先へ。
また右足裏に激痛が走った。マメの左側な気がする。稀にこの激痛が襲ってくる。
お寺では会うだろうけど、もう追い抜かれないぞと決意して歩いた。勝負事ではないけれど、気合を入れて歩いた方が足も進む。
おと2kmが11時52分だった。お昼までに着くという目標はもう叶わない。
ファミマの店舗横に休憩所のような場所が設けられていた。利用してはいないけどありがたい。これだから四国は素晴らしい。きっとここを使う遍路も多いだろう。
12時頃にけたたましいと表現したくなる警報音が鳴った。直後にスピーカーからはアナウンスのようなものが流れていたのでミスだったのかもしれない。
ぶどう園meetsプール。
川沿いの道は確か一般車両進入禁止だったんだけど、普通に一台通っていった。関係車両だったのかな。
これが橋の先から歩いてきた来た道。次は田んぼの中の道を歩く。お寺までは300m。
そして第29番札所摩尼山国分寺に到着。12時20分。土佐の国分寺。
右が本堂で、左が大師堂。本尊は千手観世音菩薩。
お参りを済ませてベンチに座っていたら2人がやって来た。
足は蜂にでも刺されたかのような激痛がしている。
鈴か錫杖をリンリンと鳴らしていたおじさんに話しかけられたけど何語か本気でわからなくて何一つ聞き取れなかった。多分日本語だったんだろうけど。
お寺にもいろんな参拝客が来る。一眼レフで写真を撮りまくる人。犬を抱いたまま来て会釈を無視する夫婦。マメの状態を確認していたら車遍路夫婦の旦那さんは小声で大丈夫…?と声を掛けてくれた。
右足裏は絆創膏そのままでよくわからないけど(痛いのは見なくてもわかる)、左足裏はマメが一部固まりかけていてスタンプを押したような状態になっていた。
13時にお寺を出た。出る際に2人に声を掛けた。もう少しですね!と。長かった一日の行程もあと8kmほどだ。(いや、今考えたら、別にもう少しではない…。)
変に田んぼの中の道を通らされるからどの道を行けばいいのか戸惑ってしまうことがある。ここへの道でもそうだった。きっとお遍路あるあるの一つ。
川沿いの道には靴のサイズくらいある白い毛虫を見た。今まで見た毛虫の中で最も大きいそのサイズに引いた。
疲れで判断力が鈍ることもあるだろうけど、道に迷うのも遍路のうち。その遍路真っ最中に橋の近くで迷っていたら、善楽寺?と突然声が聞こえたので振り向くと、補聴器を耳につけた自転車のおじいちゃんが後ろにいた。とてもわかりやすく道を教えてくれた。きいつけてねと温かい声をかけてくれた。
まだ4キロもある…という風に、残りの距離の長さに唖然とするのも毎日のこと。
でもおじいちゃんに教えてもらった道を行けば看板もあって助かった。
近くに小屋があるはずなのになかなか着かない。というか、山に登ってないかこれ…と思っていたら、峠への道だった。そりゃ登る。
14時14分、ヘンロ小屋発見。休憩しようと荷物を置いて座ると、ここでも蜂が襲ってきて困惑。でも通りかかった原付の音で逃げたから良かった。
少しお腹を満たそうと持っていたわかめおにぎりを探すのに、ない…!と焦っていたら袋から出ていた。
それからおじいちゃん遍路が来た。あんまり喋らない人だからこっちから少し話しかけた。今回は2回目らしい。
例の2人も別々に来た。眼鏡の彼は笠を買っていた(買おうか悩んでいると聞いていたので買った方がいいと思うと勧めてはいた)。そのまま休憩せずに先へ進んでいった。
その後少ししてからポンちゃんも来た。おじいちゃんも一緒に3人で少し話をした。
程無くして僕1人で出発した。あと2kmで今日最後のお寺だ。
高知市に突入。
市街が見える。
突如道路の左に階段が出現。
そこを下りると民家の間に出た。その住宅街を抜けるように歩いていく。
15時10分に到着した。第30番札所百々山善楽寺。
先に着いていた眼鏡の彼とその場にいたおばちゃんと会話を交わした。おばちゃんは飲み物を僕たちに買ってくれた。飲み物やったらいくらあっても困らんやろと。これからは介護の現実に戻らないといけないと言っていた。
貰う前に気付いたけど納経に行くのに財布をバックパックに忘れるというパターン、本日2回目。
眼鏡の彼(メモには眼鏡くん眼鏡くんとある)に記念に写真いいですかと頼まれて、恥ずかしいから納経帳で顔を隠した。可愛い。
境内から離れてお寺の写真をほとんど撮っていないことに気付いた。まあこれが最初でもないし良いかと気にせず歩く。撮るための旅でもないし、撮るために戻るのも疲れるし。
駅まで歩いていたら先程のおばちゃんが、迎えに行ったおじいちゃんを助手席に乗せて車を走らせていた。僕を見つけると速度を緩め、窓ガラスを開けて声をかけてくれた。おじいちゃんにほらお遍路さんだよみたいなことを言っていたけど、おじいちゃんは何のことか理解できずにずっと前を向いていた。乗せていこうか?と言われたけど、距離もそんなにないし、(何より今まで断ってきたし?)ただでさえ大変だろうから断った。親切なおばちゃんだった。
この日だけではなく、歩いていると歩行者信号の青信号率ほんとすごいなーと思わざるをえなかった。たまたまだけど、功徳を積んでいるからと言っても怒られはしないだろう。
そして土佐一宮駅。
何も考えず切符買ってしまったけど、時刻表を見たらすぐに電車が来るということが発覚。
乗り場わからず焦ったけど手前、目の前のホームに来て助かった。
これが禁断の手としてきた初の交通機関。今まで歩きにこだわってきたけど、萩森さんから言われた電車に乗って行けという言葉に甘えながらも、痛みもあるし、歩きにこだわり(固執し)続けるというのもあれだしと、自分の新たな行動を正当化してるようで、いや、でも、別に正当化といっても悪いことをしてるわけではないし、いや、でも、悪いことなのか…?ととてもとても複雑な気持ちだった。
車内では、歩いてないから少し恥ずかしいし、普通に下校する学生とか沢山いて、今まで歩きでは気にならなかった汗の匂いが気になった。でもそのたった1両の電車の中には白衣を着たおっちゃんがいて、これが四国かと思いつつ、交通機関に乗る遍路を見て少し気が楽になったかな。罪悪感に似たような気持ちが。
そして高知駅。
高知駅からは路面電車に乗って移動。でも目的駅は乗り過ごしてしまった。久しぶりの路面電車が楽しかったせい。
四国は上2つは来たことがあったけど、下2つはなかったのでこれが初高知。想像以上の都会っぷりに驚いたけど、高知に住む(この日の夜に会った)知り合いいわく、駅周辺だけだから松山や高松の方が上とのこと。
ゲストハウス土佐は優しそうなおばさんが出迎えてくれた。お着き菓子としてお抹茶と和菓子を出してもらったけどそれも美味しかった。ほんとに丁寧に接してくれて親切な方だった。
でも最初この女性がオーナーと思っていたけど、話が進むうちに実は違うということが発覚。オーナーである奥さんはこのときは不在で、夜には帰ってくるだろうとのことだった。
ちなみにさっきの高知が想像以上に都会で驚いたというのをこのおばさんにも話したら笑われた。結構失礼な自分。でも別にdisってるわけではないのです…!(弁明)
部屋はドミトリーの和室の畳に布団を敷くスタイル。でも今日の宿泊客は上(個室?)にもう1人いるだけ。つまりドミトリー部屋でありながら個室状態。ツイていた。
ちなみに宿自体は不思議な場所にあった。ビルのような建物の中に和風の家を詰め込んだような印象を受けた。なぜか写真は上の和菓子1枚しか撮ってなくて残念だけど、隠れ家的ゲストハウスと紹介されてるのも頷ける。
本当に好印象な宿だった。9割方は奥さんとスタッフさんの人柄の評価だけど、でも本当に心地良く過ごせた。
おばさんに聞いたけど、萩森さんはみんなに言っているらしい。かつおのたたきを食べろと。薄々そんな気はしていたけどやっぱりそうだった。
とりあえずシャワーを浴びた。出発以来一度も剃っていなかった髭も剃った。タオルは宿のものを受け取っていたのに浴室に持っていくのを忘れていて、部屋と浴室の間にリビングがあってそこにおばさんがいたので、ちょこっと扉から顔を出して取ってもらった。実家かっ!と自分に突っ込みながら面白くて恥ずかしくて笑った。
宿に洗濯機はあってシャワーを浴びる間回していた。でも乾燥機がないとのことでコインランドリー(すぐ近く)を教えてもらった。洗濯をする際はだいたいまとめて洗うから、量が多くて今までもちょうどいい袋がなくて、バックパックに入れて運んだりしていた。この時もそうしようとしていたんだけど、そんな自分の状態を見かねたおばさんが、すべての洗濯物が入るくらい大きなビニール袋をくれてそれで運んだ。これはこの先もかなり重宝した。ありがたい。
コインランドリーに向かう途中、下着が見えそうなくらい短いスカートを履いた20代の女性が前を横切った。ああいうのに見惚れるのは煩悩だよなと思いながら、そういう人がいる高知市のお街っぷりを感じた。
コインランドリーの中にはiPhoneについて電話で話しているこれまた若い女性がいた。ただの日常の風景だけど、ここ2週間はそんな日常ではなかったから、現実に戻ってきた感じがした。別に特に思うこともないんだけど。
入り口にあった自販機で缶のコカコーラを買って乾燥が終わるのを待っている間、建物の中にあるパイプ椅子に腰掛けて飲んだ。四国ではあるけど、今までとは一風変わった時間の過ごし方で、少し不思議な感じがした。
人を見かけたら会釈をしてしまう癖がついてることに気付いた。でもこんなとこで普通しないよな… 逆に不審者だよな…と悪いことではないのに複雑な気持ちに。
新たなマメが人差し指の爪の横にできていた。これはもう靴が悪いんだろうか。それとも30kmや40km手前まで連日歩くとこうなるのか。熊野古道の際はトレッキングシューズだったけど、ここまでひどくはなかった。原因を突き止めたいけど確かめようがない。
18時半過ぎから夕食を食べに行くことにした。元は神戸に住んでいて今は愛媛にいる古い友人も絶対行けとのことだったので、萩森さんから勧められなくても元々行く予定ではあったひろめ市場へ。
ここがひろめ市場。台湾の夜市を彷彿とさせる活気がある場所だった。各屋台・お店で購入したものを広場にある席で食べるという形が多かったので、相席で食べることになった。
地元の人にとって要はここは飲みの場。酔っ払っている人も多いからなかなかの騒々しさだった。この時の僕は旅の最中でその土地を感じられる場所として悪い気分ではなかったけど、でも地元だったらあまり来ない場所だと思う。少なくとも1人では来ない。
かつおのたたきのセットに、うつぼの唐揚げをつけた。もっと量は食べられたけど時間が遅くなるにつれ、酔っぱらいだらけの雰囲気に圧倒されちゃってそそくさと退散。
でも味は美味しかった。また食べたいというのが本心。
ひろめ市場までは商店街があって、そこでドラッグストアを探して(絆創膏等毎日消費しているから)歩いていたら、突然水ぶくれが破けて、中から出てきた水でサンダルがべたべたになり、テンションだだ下がり。
コンビニで買ったティッシュで拭くけどティッシュがぼろぼろになるだけで、結局持っていた汗拭きシートを使った。その使用済みのあれこれを捨てようとゴミ箱があった場所に行ったら、今度は20時を過ぎたからかゴミ箱が撤去されていて、商店街の店はもうほとんど閉まっているし、こんな早い時間に閉めるのかと衝撃を受けつつ、人通りも少なくなった夜のアーケード街で、ついさっきまであれほど賑やかだったのに…と物寂しい気分になっていた。
普通なら宿に帰ってもう寝るだけなんだけど、明日会う予定だった知り合いとなんかノリで今日会うことにして、相手が来るのを待っていた。
でも考えてみたら、帰る時間遅くなりすぎたら宿が不安だなとちょっとだけ後悔。門限は言われてなかったし、ゲストハウスによっては24時間出入り自由だったりするけど、建物の構造というか、民宿的な雰囲気というか、ちょっと夕飯食べてきます的なノリで出かけたから心配されるだろうな等の点で。
それと上で書いた、午後8時に突然人通りが少なくなったアーケード街の寂しい雰囲気の中で1人で待つというのも含めて、正直ナーバスな気分になっていた。
待ち合わせ場所決めていなかったからふらふらと歩いていたら、ライトアップされる高知城を見つけた。
中央公園の横に付けたヴィッツに乗って、今朝休憩で寄った道の駅まで行った。
自分が1日掛けて歩いた道は車だとあっという間で、車はえー…と面白さを感じながらも若干引いた。
今までずっと歩いてきたけど、今日は電車にも乗ったし、乗り物デイになった。なんで自分は歩いているんだろう…みたいな考え方にはならなかったけど、でも早く進むことはできるのにわざわざ歩くということについて考えないわけにはいかなかった。そしてそれは歩き旅が好きだからという答えにすぐにたどり着いた。車や電車では速すぎて見逃してしまう光景が歩きの中には沢山ある。時間を費やすがゆえに見える景色、出会える人、抱ける想いは存在する。
ドライブしながら見る夜の知らない街というのも純粋に面白かったけど。
道の駅に着いてからは、その奥にある浜辺まで歩いて話した。
離れてるからなかなか会えない相手と直接会って話すというのは良い機会だったと思う。色々と思うところはあったけど、楽しかった。時間もあっという間に過ぎたし。
別に隠す理由もないけど、細かく書く理由もないので簡単に書くけど、高知市に住む同い年の170cmくらいある女の子。(無駄に意味深な紹介…)
宿に着いたのは11時半過ぎだった。
出るときはこんなに遅くなるとは思わなかったから申し訳なさを感じながら戻った。
鍵は元々ロックが掛かっていてインターホンで開けてもらう形だったけど、戻った際には開けられていた。
リビングには誰もいなくて、どうするべきだろう…と悩んだ挙句、上の階の人がいることを確認してから鍵を閉めることにした。
そして内側から鍵を閉めようとしたら、閉めた瞬間に自動でまた開いた。悩んだ意味ねえ…と思いながらも、遅くなったからそういう設定にしてくれたのかな…とまた申し訳なかった。
歯磨きをして綺麗な布団の上で眠りについた。
1日がまた終わったと思っていた。
しかし2時過ぎに女性の叫び声がずっと続いていて、それで目が覚めた。すぐに終わるだろうと思っていたのに、もう延々と続いて、何が起こっているのかと窓を開けてベランダに出てみた。
すると少し離れた場所に5、6人いて、1人の女が甲高い声で叫ぶように男を罵り続けていた。もう1人の女はずっと泣き続けていた。罵られていたドスの利いた声の男は応戦というか、もうあれは完全に女を殴る蹴るしていたと思う。何が起こったかは知らないけど、その男に対して絶対に許さない。殺してやるというようなことを女は叫び続けていた。
自分も通報すべきかと考えていたけど、結局パトカーが数台来て警察にそれぞれ離されて事態は収束した。
リアル警察24時みたいだ、警察様様。とようやく静かになって思ったけど、飲み屋街でも風俗街でもないのに、いい迷惑だった。本当に長い時間ヒステリックな叫び声を聞いていたから完全に目が覚めてしまったし。
明日も歩かないといけないのに…と呆れながら布団に戻った。
こちらに気付かれたら面倒だからとこそっと撮ったけど状況まったくわからないというオチ。