四国歩き遍路の旅 19日目

6月11日。
5時20分起床。向かいの部屋、ゆうた君はもう起きているような気配がある。そういえば6時とかに歩き始めると言ってたっけ。
手を汚した甲斐()もあり、虫については問題なく眠れた。ベッドの隙間等に潜んでいたのが何匹かは生き残っていたけど。
日に日に朝の準備がゆったりになっている気がする。荷物のまとめ方を変えたからか、一日の始まりから焦らないという考え方になったのか、朝になっても残っている疲れや痛みに辟易して遅れるのか。
でも今は気分は悪くない。洗濯物はまだ少し湿っているけど、でも問題はない。
準備を終え、部屋を出てチェックアウトへ向かうために、(玄関ではなく本館との最短にある扉から出入りするようになっていたので)外に置いてあった靴を履こうとすると、靴の中には奴らの羽根の置き土産が無数に入っていた。取り除いてから本館へ。

午前7時頃、本館の入り口前にはちょうど出発直前の逆打ちのおっちゃんと見送る奥さん、九頭竜さんもいた。
奥さんからはお接待ですとおにぎりが2つ入ったパックを、九頭竜さんからはまさかの錦と金の納め札を頂いた。九頭竜さん自身のではなく協力者から貰った札らしいけど、思わずテンションが上がった。本当にいいんですか…!?と。
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靴紐を結んでいると、一番下からではなく2段目から通すと楽になるよと教えてもらった。早速それを試してみると先端にゆとりができて本当に楽になった。これが知恵らしい。
昔鉄砲撃ちだったという逆打ちのおっちゃんも色は白だけど詳細に書き込んだ納め札をくれた。この先にあるという足の痛み(?)に効くたぬきの油を扱っている民宿を奥さんに教わっていた。
九頭竜さんからは君とはまた縁がありそうだと言われた。縁がある人とは3回は会うらしい。感謝を伝えて、ブログ遊びに行きますと約束した。
部屋に虫が大量に来るということを伝えるために一部の虫の死骸はそのままにしておいたけど、こんなによくしてもらうんだったら片付けておくべきだったと後悔した。一応、網戸閉めてても入ってきてましたよとは口頭でも伝えたけど、でも良くしてもらったからとそう思っているようでは心の清さが足りない。反省した。
出発前には奥さんにかなり写真を撮られた。鉄砲撃ちのおっちゃんとのツーショットも。写真を撮られるのは好きじゃないけど、今回は顔隠せる雰囲気ではなかったので、ぐへへってな表情で()

雨の前に今日中に宿毛市に入っておきたいといつものように厳しめの目標を立てて出発した。

ここにきて、すべてが良い方向へと向いたようなそんな気分だった。出会いとはほんとに見事なものだ。

先に出発していたおっちゃんは、頂点に髑髏が付いた手作りの杖で歩いていた。彼は逆打ちなのでもう会うことはないだろうから、また!ではなく、お互いに頑張りましょうと声を掛けて追い抜いた。

昨日の午後からの軽装を体がまだ覚えているのか、いつもの荷物が随分と重く感じた。

既視感のある景色が続く。行きは海が左側にあって、戻りでは右側にある。打戻り。
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この打戻り区間で、誰か今まで出会った人とすれ違いたかったが、区間の終了まであと僅か。

テントを買うとしてバックパックの容量的に上手く持ち運べるかという不安は当然ある。
今でさえ結構詰め込んでも寝袋は入りきれていないのに、はたしてテントを購入して大丈夫だろうか…と。もちろん今以上に重くなって負担も増える。かと言って、バックパックを買い換えるというのは現実的じゃない。どうしていいのかとまた悩むしかなかった。
尽きない悩み、その不滅っぷりは敵ながら天晴。

下ノ加江に戻ってきた。
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なぜか昨日通ったはずの下ノ加江大橋の上で迷いかけた。多分手前のガソリンスタンドを行きはよく見てなくて、あれここ通ったっけ…?と不安になったんだと思う。
コンビニに寄らないなら橋を渡らず、真っ直ぐ進んでよかったという話。コンビニに寄るから渡ったけど。
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ローソンで買い物を済ませて少し休憩してから8時17分に再出発した。このローソンの裏にある安宿という名の宿に泊まって金剛福寺を打って戻ると奥田さんが話していたのを思い出した。
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複数人から話を聞いた上で、下ノ加江から三原を経由するルートを選んだ。しかし三原がありそうなのはどう見ても山の向こう。今日も大変な一日になりそうだ。
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いろんな町があって、いろんな人がいて、いろんな生活がある。この先自分は誰と出会うだろう。誰が自分を受け入れて、誰を自分は受け入れるだろう。
ワクワクするほど期待はできないけど、これから起こり得る様々な出来事を自分の目でしっかりと見ておきたい。
いろんな道があるんだから、わからない、知り得ない未来にはいろんな可能性があって、想像してもいなかったような自分や自分の人生が待っていそうだから。

打戻り区間が終わってしまった橋の上でそんなことを考えていたら、大きな蛇がいるのを見つけて肝を冷やした。
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悪くない。歩くのも生きるのも、悪くない。
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あ、絆創膏買うの忘れてたとコンビニでの買い忘れに気付いた。三原は地元のスーパーみたいなお店しかなさそうだから、その先の平田のローソンで買うことにした。

誰かが歩いてくるかもしれない反対側の道を眺めながら歩いていたけど誰の姿も見えなかった。
仮に誰かを見つけたところで、声の届く距離じゃないから自分の存在を知らせることはできないのに、ずっとそちらを見ていた。そもそも歩行者がいても豆粒にしか見えないからそれが誰かなんて確認するのは不可能なのに。

農家民宿くろうさぎの看板、可愛い。
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山へと近付いていく。
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川を渡りきってからは水の音が遠のいていった。自分の歩みが進んでいる証拠。

もうちょっと水を持っておくべきだったろうか。ゆるやかな登りとは聞いていたが、長い道のりになりそうだ。
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アユとマコがこの地に参上したらしい。まさかここにあのアユとマコが参上しているとは思わなかった。高知のアユとマコといったらもうね(誰)
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この警笛鳴らせの標識は教習所以外で初めて見たかもしれない。他にどこかで見ただろうか。
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猿が喧嘩でもしているのか?と思うような動物の鳴き声が山から聞こえた。
川の音が大きくなったり小さくなったりする道だった。この山の中の道は昔からあるのか、それとも切り拓いたのか。
川の下の方では工事が行われていて、自然を体感するには似合わない音が聞こえていた。そう長い区間ではないので、歩き続ければ聞こえなくなったけど。

多分ゆうた君もこのルートを歩いているだろうけど、もっと前にいるのかなかなか姿は見えない。だけど自分のちょっと先に通しの人がいるという安心感は素直に嬉しい。
しかし、久しぶりに刺さるような激痛が襲ってきて顔をしかめた。今度は爪に感じた。爪に来られては困る。

高速道路用(?)の橋脚があったが、随分古く見えた。これからどう利用するのか、はたまた計画が破綻したのか。
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想像していたよりずっと山の中に道は続いていた。これは三原に着くまで本当に何もないかもしれない。

川が流れる音、鳥の鳴き声、杖の鈴の音、靴が地面に着く音。自分が歩いているんだと最も実感できるのは音だ。
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ガイドマップにはほとんど何も記載されていない場所だけど、河内神社という神社ならこの先にあるというのがわかる。しかしその神社にもなかなか着かない。

足が軽くピリピリと痺れるような感覚があった。

昨晩のゆうた君との会話を思い出した。般若心経だけだけど読経もしているらしい。偉い。
そして、ここが最年少ラインだよねというのも話題になった。長期休みなら大学生等もいるのだろうけど、今の時期は僕より年下の遍路にはまだ出会っていないし、話にも聞かない。ゆうた君が出会った香港の子も同い年だと言っていた。1992年生まれの世代。面白い。

突然民家が現れた。もう少し進むと、この家だけでなく他にも何軒か建っていて、ここが集落なのだとわかった。この集落の人なのか赤い車に乗ったおばあちゃんが横を通り過ぎた。スカパーのアンテナがある家もあって、妙な現代感が良かった。
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変態を終えたばかりなのかとても美しい黄緑色のアマガエルがぴょんぴょんと僕の前を横切った。
その後すぐに車内に遍路姿の4人が乗った車が一台通って、どうか轢かれないでと願った。
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落石注意の看板が多数設置されていた。ちょっとだけ怖い。

さすがにここが神社じゃないだろうけど9時50分から休憩を取ることにした。甘いのが食べたくて買った生チョコクレープは形が崩れていたけどすぐ手を洗える環境で助かった。
高知はやたらとローソンが多くて(高知市街を除けばコンビニの9割がローソンな気がした)、絆創膏のクオリティ的にというか、ローソンで売っているウォーターブロックのバンドエイドが一番良いので、ローソン最高!と、んでまあコンビニ自体の利用回数も多いわけだから、この時期ローソンでやっていたスヌーピーのキャンペーンの応募シールを実は集めていた。何か旅の中に楽しみを見出そうと始めた取り組み。パンやスイーツにシールは貼られてあるから意図的にそういう商品ばかり購入することになったけど。
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雨が降りそうだ。恐ろしい。
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歩き始めて約3時間は経過しているのに、まだ10kmちょっとしか進めていない。今日は全然進めない日なのか。
今朝からある右足小指裏の違和感を確認してみたら、新たにマメができようとしている感じだった。

10時10分過ぎに再出発した。お地蔵さんだった。
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左足ももの外側に違和感があった。と思っていたら、右足にも感じるような気がした。筋肉疲労なら休むしかないのだろうか。

少し先にもまた集落があった。こういった場所よりもっと奥地にある日本の集落を見てみたくなった。
その集落に河内神社はあった。集落の外れには墓地があって、ほとんどの墓石には大塚家之墓と書かれてあった。この集落に大塚さんが多いのだろうけど、初めて見る光景だった。
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一応三原村に突入した。だがここからがまた長そうだ。
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ずっと視界に入っていた高い山が見えなくなった。進行方向からすると、気付かぬ間にその山(の間?)を抜けていくような進み方になっていたのかもしれない。
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周りを見れば、それなりに高い場所にいるということがわかる。
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2km先に休憩所があるらしい。10時49分。ガイドマップに載っている芳井ヘンロ小屋のことだろう。

またそびえ立つような山々が見えてきた。くろうさぎの案内が可愛いのはやはりフォント。調べてみると宿自体はあまり可愛い要素のない普通の民宿だったけど。
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いろいろな考え事をしながら歩くのもいいが、無心で歩くのもいい。

すれ違う車は基本的にみんな会釈をしてくれて、優しいなー、わざわざ車の中から丁重だなーと感じた。

休憩所まで後1kmで11時1分だった。だいたい1km12分ペース、つまり1時間で5km進むということになる。2時間で10kmと考えれば悪くはないペースだ。
まあ、休憩もかなり取るし、距離が増えるにつれ歩行速度も遅くなるけど。

何か気になる人・物があった場合、ついつい振り返ってしまうんだけど、振り返ると首や肩が痛い(旅の最初の方は振り向きすぎてその場の痛みだけでなく、しばしそれが残っているぐらいだった)。なのにこのときも作業員がいた先にまた作業員がいていったい何をしているんだろうと振り向きたくなって、それを、振り向くな…前だけ見て歩けばいいんだ…後ろには自分の足跡があればいいんだ…と無駄にわけのわからない言葉を自分に言い聞かせて我慢した。
山の中を抜け、ずっと木々の間のような道を歩いていたというのはあるけど、どれだけついてきてんだよってくらい長い間、小さい虫が顔の周りを飛んで邪魔だった。き、昨日お風呂には入ったから不潔だからついてきてたわけではないと思います…(震)
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美味しそうだったので食べたら死にました。何のキノコなのだろう。キノコについての知識がまったくないからわからない。
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しばらく歩いて芳井橋を渡ると集落が現れた。そこまで古くない家があって、子供の服なんかも干している。なんだかホッとする。
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ということはここに休憩所があるはず、なのに…ない…。
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小屋はどこだ…まだか…といういつもの現象の末、11時15分頃見つけた。ヘンロ小屋っぽくはないけどここのことだろう。
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飲み物ご自由にお取りくださいと張り紙が書かれていて、隅に冷蔵庫があった。お茶やコーヒーだけではなく、チオビタ等もある中、喉がかなり乾いていて、先程キャンデイの方のゴミを拾ったからか、ありがたく三ツ矢サイダーを頂いた。
程無くしてこの休憩所の管理者であろうおじいちゃんが奥の民家から出てきた。お昼だから飲み物だけじゃなく、カップ麺もどうぞと勧めてくれたので一番惹かれた醤油ラーメン(ごつ盛り)を頂いた。
ポットも置いてあるので、お茶やコーヒーだけじゃなく、カップ麺も食べられて、消毒液等も置いてあるし、至れり尽くせりのおもてなし(お接待)はすごいなあと感動した。頭が悪そうな表現かもしれないけど、もうこんなときは、すごいなあとしか思えない。
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ちなみに山の中は圏外だったけどこの辺りは電波が通じた。

読み物も置いてあった。
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汗はかいちゃったけどお腹は満たされたし本当にありがたかった。
キツい道は今までこの身で体感してきたからもちろんわかっているけど、話の流れから、立派というか、何もないとこをひたすら歩くしかない楽ではない道という意味で、この道もなかなかですねと言うと、この道で弱音を吐いてたちゃ駄目だと少しお説教を喰らった。愛媛に入ればもっと峠が増えるんだからと。うん、そうですね、もっと頑張ります。

ゆっくりしていってくださいねとおじいちゃんが離れてから、ちゃんとした食事も取ったからいきなり歩くのもあれだし、眠くなりつつもしばらくゆっくりしていた。
そこを離れたのは11時50分。

歩いてゆく。
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ある程度歩けばその日の調子等わかってくるので、だいたいどのくらい進めるかも予想がつく。このときは今日中に高知県最後の札所、延光寺は厳しそうだということが予想できた。
もうお昼になったというのに、なぜこんなに進めないのか。昨日走ってしまったからだろうか。そんなに長い距離は走ってないのに。

下を向いて歩いていたら、こんにちはという声が前から突然聞こえて驚いた。カーブの道だったので前から人が来ていることにまったく気付いてなかった。
逆打ちの若い男性だった。すれ違ってから離れた後、ちょっと話をすればよかったなと思った。誰かが前から来ることを予想することがないくらい、地元の人すらほとんど歩いていない道だったから。
歩き遍路の年齢層について考えた。若者率が徳島から比べるとかなり上がった気がする。それは若者が増えたというわけでなく、高知の険しい道で年配者がリタイアして減ったのだと思う。愛媛はどうだろうか。

徐々に車が増えてきた。スピードを出す車も増えた。

全長30センチ以上はありそうなミミズがいた。デカすぎる。

三原小南分校跡。こういった場所に来ると、たとえばここなら、この分校が賑わっていた時代にタイムスリップしてその雰囲気を味わいたいと思う。
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上にあるのがどんな建物かはわからないけど、階段の上から男性が僕に手を振っていて、こんにちは!頑張ってね!と応援してくれた。
この先に竹内商店があって閉まってはいたけど、お店の前には久しぶりの自販機があった。スポーツドリンクとは別に、リアルゴールドも買って一気飲みした。潤う。
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風が気持ちよく吹いていた。自分は自由だなと感じた。なんて自由なんだろうかと。
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天満宮のベンチで少し休憩していると、トイレ休憩にここを利用したご夫婦に話しかけられた。
定年退職後に知人に勧められて八十八箇所を回っているらしい。歩き遍路には頭が下がると言われた。
あんまり冷えていないけどと言いつつ結構冷えている飲み物をくれた。
後ろから10人程の男の子グループが来ているという情報も貰った。土曜だから学生集団でも歩いているんだろうか。にしても10人は恐ろしい。
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トイレの横には小さなメリーゴーランド。コンセントは繋がっているように見えたけど動くかどうかは知らない。こういうのは大抵動き始めても止め方がわからないオチが待っている。
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ありがたい。ただただありがたい。
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もう少し歩けば三原町の中心部に着くはず。
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そして消防署がセットになっているような役場を発見。コンビニはなかったけど小学校や郵便局もあった。
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爪がかなり痛くなってきた。辛い。ただただ辛い。

もう少し先には、道の駅のような「憩いの広場 やまびこカフェ」があった。横はちょっとしたスーパーの「みはらのじまんや」
カフェは持ち込み自由の休憩所でもあって、そこでアイスを食べた。10人くらいスタッフがいて全員男性で、年齢は20代や30代くらいの若い人たちもいた。女性が一人もいないのは珍しいし、年齢層もこの田舎町では不思議だった。 
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テレビでは地元のPR映像を流され続けていたけど、なかなかシュールな作りだった。頑張ってるなあとは思った。うん、頑張りは感じた。
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外に出て座っていると噂の男の子集団に追いつかれた。人数は本当に10人くらいいたし、性別も男で合っていたけど、ほぼおっちゃんばっかりだった。

爪があまりに痛すぎてテンションだだ下がり。剥がす前から絆創膏は滲んでいて、剥がしてみれば爪と皮膚の間で化膿している部分が赤く腫れ上がっていた。
どうしようかなあと困り果てていると、いきなり女の子が現れて、ダイジョブ?マメ?と聞かれ、何も頼んでないのにバッグからさっと消毒液を取り出して消毒してくれて、絆創膏を持ってるかと英語で聞かれて取り出すと貼ってくれた。なんだこの子は…と呆気に取られていたら、あれよあれよという間に処置が終わっていた。
日本語はほとんど話せないようだったので英語で話しかけてみると、彼女は香港から来た子で、年齢は23歳とのこと。この子あれだ、ゆうたくんが言ってた同い年の外人の子だと気付いた。でも女の子というのはまったく予想外。
そのわりとすぐ後に来たのはまさかのゆうた君。7時半に宿を出たらしい。いろいろと出発前に話をしたりしていた自分の10分ほど後に出たということだ。
何日前からかは聞かなかったけど、ゆうた君と彼女はだいたい同じペースで回っているらしい。
それにしても小さな体で野宿をしながら、異国の地で女の子が1人で歩いているなんて、もう脱帽するしかなかった。すごく頑張るなあこの子と。

1200kmはある長い遍路道で一枚の写真に収まりきるくらいの距離で同い年の男女3人が歩いている光景はちょっと感動的。
さっきお礼は言ったけどもうちょっと感謝を伝えとこうと追い抜く際に、君の治療のおかげでマジで空を飛んでるようだよ!と伝えると、どういたしましてと言いながら爆笑してくれた。自分も言い終わった後になんだ今のはと吹き出した。
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3人が集まって一緒に歩くような形から徐々にばらばらになった。そりゃみんな歩くペースが違うわけだから当然。あまり干渉しすぎない、気遣いもそんなに必要じゃない距離感がやはり楽だ。まだ先は長いのだから。
一緒に歩いているときに彼女がチタという名前なのがわかった。今日はどこに泊まる予定なのかも話して、延光寺まで行かずに手前の平田駅という駅に泊まると僕が話すと、チタがそこは誰でも泊まれるの?と聞いてきたので、多分泊まれると思うと返すと、なんだかんだで3人でそこに泊まる流れになった。ばらばらで歩いても今日の目的地はみんな一緒。

宿毛市に突入。
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中筋川ダムの上を歩きながら、野宿場所リストにも載っていた梅の木公園を見下ろした。トイレは遠そうだし、朝晩も寒そうだけど、静かで気持ち良さそうな東屋だ。公園自体はとても美しい。
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振り返っても後ろに2人は見えなくなった。そして、やっぱり爪が痛い。なぜ歩けているのか不思議なくらい痛い。
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平田小学校。駅まで後一踏ん張り。
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そして平田駅に16時35分に到着。後ろを歩いていた2人もしばらくして来た。
チタはどうやらアプリとメモ帳に手書きをしながら日本語を勉強しているみたいだ。ちょっとした日本語講座というか、わからない言葉をいくつか教えてあげた。
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近くには潰れたスーパーがあったが、2014年のストリートビューでは営業している様子だった。切ない。
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少し先にあるローソンで夕食や絆創膏、You must buy this one!と言われていた消毒液も買った。
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それぞれ荷物の見張りをして買い物を済ませてから夕食タイム。
チタが自前のガスバーナーで餃子を焼き出して、珈琲を入れていたひかる君越えだなと笑った。日本人がコンビニで餃子を食べたいと思うときは、多くの人は既に調理されてある(焼き終わっている)ものを温めてもらって済ますだろう。でも彼女は違った。1つどうぞくれたので、お返しにカットフルーツをあげた。
お酒飲んで、タバコ吸って、ゲップもして、野性味溢れる超自然体の子だったけど、でもこの旅を全力で楽しんでいるように見えた。菅笠なんかも手作りっぽかったし、この子面白いなーと感じ、また何か大切なことに気付かされたような気もした。ゆうた君もお酒を買って飲んでいた。みんな旅を楽しんでいる。
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いろんな人たちがいるのに、国籍も性別も違うけど、同い年3人がこうして無人駅の構内で一緒に過ごしているのはとても不思議だった。

椅子の下に田口氏の財布が落ちていたけど、中のお金は抜かれていたかもしれない。交番は近くになさそうだったので、わかりやすいところに置いておいた。

9月から大学院に入るチタは大学で建築を学んでいたらしく、Ando知ってる?と聞かれ、 Tadaoのこと?と聞き返すと、そう、彼の作品はクールよねと。日本の建物を見るのは楽しいらしく、この遍路旅をしていれば様々な建物が見られるわけだから、それも彼女の旅の楽しみの一つなのだと思う。
香港生活はどう?と尋ねると、退屈と返ってきた。そして最近の香港は中国人いっぱいでうんざりすると。香港の若者のリアルな本音も聞けた。

テントを設営して2人は中に入った。暗くてわかりづらいけど、右がゆうた君で、左がチタ。
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21時14分、夜を走る電車が駅に停まっても、ホームは少し離れているのでここには誰も来ない。トイレは隣にあるし、自販機もすぐ近くにある、ありがたい場所。
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明日は雨予報。レインウェアを着ても、大雨だとバックパックの中まで濡れてしまうから困る。
楽しいと思える時間を過ごすと、痛みとのコラボが勝手に始まって、旅を早く終わらせたい気持ちと終わらせたくない気持ちが相反してしまうのも困る。いや、こっちはそんなに困らない。


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