6月18日。
7時頃には目が覚めた。同部屋の2人も8時には起きていたと思う。
大阪の彼はワイシャツのまま寝ていたみたいだ。昨晩上司から書類か何かのやり直しを指示されていて休日返上なのか、渋々出勤していった。
例のとこはやはりジンジンと痛んでいた。あつしさんから乾燥させた方がいいよというアドバイスを貰ったから、昨日温泉から上がってからは絆創膏は貼ってない。飲み薬は今朝の分で無くなってしまった。症状は正直まったく回復していない。
ヒッチハイク遍路については今からあれこれ悩んだって仕方ない。やってみないとわからない。きっとひたすら声掛けするしかないのだろうけど。
今となってはなぜこのとき屋上に行ったのか思い出せない。眺めたかったんだろうか。
屋上へは一旦外に出てから非常階段のような階段を上る。ゲストハウス自体も元々がそうであるように外観は普通の民家。
中野君が、もう会うことないと思うけどと言ってから、じゃあ頑張って。とわりとぶっきらぼうに(照れ臭かったんだと思う)応援の言葉をくれて、結願したらメールくださいと言われた。
でも彼は荷物を宿に預けたまま少し松山をぶらぶらするらしいから、お昼に会いそうだけどなあと僕は思った。
テント In 30Lバックパック。やっぱり無謀だ。
手作りチェアに腰掛けて、風を受けながら、ただ時を過ごしていた。空は青空、晴天。
気持ち良く眺めていたのに、ふと外に野良猫の糞を見つけた。誰が掃除しているんだろう。
今日は1人が同部屋に来るようだ。まあ、土曜だから当然っちゃ当然だけど、早めに荷造りを済ませておかないといけない。
こんにちはーという声が下から聞こえた。早めに着いた宿泊客だろう。おっちゃんっぽい声だった。しばらくこんにちはーを繰り返していて、クリス君も聞こえない場所にいたらしく、出てあげれば良かったなと後悔した。声の主は横浜から来たおじいさんだった。こういうゲストハウスにおじいさんって珍しい。
程無くして、中野君の声も下から聞こえたので下りてみた。
すると若い女の子も一緒にいた。誰だろう、宿泊客だろうか。ゆるふわ感があって良い匂いがする女性だった。年齢は20代後半くらいに見えて、喫煙者で、足の爪には黒いペデュキュアをしていた。
連絡先こそ交換しているけど、中野君とはここで本当にお別れ。最後に握手をした。
お昼は爽のメロンクリームソーダ味を食べた。お腹が減ってなかったので問題はなし。
今日の宿泊客は8人らしい。女の子ドミトリーは埋まるとのこと。観光都市松山。
クリス君とウイイレあったらやりたいねと話してから、今日は知り合いと会う予定なので待ち合わせの本館前に行った。
本館前のベンチに座っている際に、中華系のおばちゃんたちに席を譲ったらサンキューと返ってきた。サングラスをかけた女の人には写真を撮ってと頼まれた。皆さん良いカメラを持ってらっしゃる。
この日会う知り合いは今まで会ったことはなかったんだけど、友達繋がりでTwitterやSkypeでは話したことがあった。
松山の大学生なんだけど、松山で療養中~みたいな自分の投稿を見て、どこかで会いたいんだけどと来てたので、こちらは特に予定もないし休日のこの日に。
山の手マリアージュガーデンの中にある、ぎやまんガラス美術館に来た。結婚式も挙げられる場所で、カフェダイニングなんかもあり、やたらとオシャレだった。
美術館自体は小さいから、そう作品数は多くないんだけど、江戸時代のぎやまんやびいどろ等、綺麗なガラス細工が見られたのは良かった。
その後は道後の町家というカフェに行った。ハンバーガーが有名らしいけど、普通にドリンクとケーキを食べた。
禁煙席は奥の離れで、お座敷と椅子席があった。
抹茶オレとガトーショコラですどうも。 抹茶オレの抹茶はちょっと葉っぱのような味がしたけど、スプーンですくってくださいと言われたクリームはとても美味しかった。ガトーショコラも美味しかった。
同級生がお遍路の休憩所を運営しているという話を聞いた。語り場&フリースペース「ご縁」という名前で、53番札所と54番札所の間にはほとんど何もないからと、北条という場所で53.5番札所として始めたらしい。
女子大生が古民家を借りて(?)1人で始めたということに当然驚いた。格安で泊まれるという遍路相手のお接待だけでなく、地元の人が集まる語り場としても活用されているらしい。
調べてみると、アクセサリー作家のギャラリー展やイベントも積極的に行っているようで、起業のようなその挑戦を始めた女子大生に対して、素直にかっこいいなあという尊敬の念を抱いた。
思いがけず貴重な話を聞けて良かった。ちなみに、旅を終えてからふとテレビを見ていたら、その語り場ご縁とオーナーである女子大生が特集されていた。これからどういう風に続けるかはわからないけど応援したい。
宿に戻ると玄関にはクリス君作のチラシ置き場が設置されていた。とても良い感じだ。中野君が描いた絵葉書も飾られてあった。
共有スペースでくつろいでいると、ニュージーランドでWWOOFをしていたという地元の女の子が来た。クリス君とは結構仲が良いみたいで、ニュージーランドの話やテニスの話をしていた。
その女性に英語教えてとクリス君が頼んでいた。いいよ、すごい面白い光景になるけど(笑)ってのは確かにその通り。傍から見れば日本人が外国人に英語を教えているように見えるわけだから。
今から仕事らしく、今日はちらっと寄りに来ただけらしい。自分が洗濯物を屋上へと取りに行く際に、ちょうど彼女が帰るところで、バイバイと手を振ってくれた。明るくて可愛らしい女の子だった。
おじいさんとも話した。この前まで一週間ほど福岡にいたらしい。美人が多いのはいいけど、でもがちゃがちゃした街が好きだから、福岡は整いすぎ、オシャレすぎると話していた。別にネガティヴな感じで言っていたわけじゃないけど。
近所の犬。いっつも吠えているんだけど、人が見えると吠えなくなるという不思議な子。普通は逆でしょうに。
土曜の商店街は観光客で溢れていた。カップルも多いけど、女性の一人旅も多いように感じた。
最後の温泉に行った。椿の湯へ。ロッカーの番号は007。入る前にトイレに行って戻ってくると、ロッカーの中にあるはずのiPhoneが盗まれたかと一瞬焦ったけど、普通に脱いだ服のポケットにあった。ドジ。
土曜日、人が多いということはそれだけ様々な客がいるということ。子供、隣の隣でシャワーから勢い良く冷水を出している人、知的障害の中学生か高校生、湯船の近くで顔中にクリームを塗ってただぼーっとしているだけの人。いろんな人がいた。
楽しい日々が終わろうとしている。観光を越えて、家にいるようなくつろぎ方をしていたから、またひたすらに自分を追い込む日々が明日から再開するということが恐ろしい。
とはいっても、歩き始めればすぐに戻るのだろうか。といったようなことを考えながら、楽しそうな観光客を眺めながら、宿へと戻った。
今はじんじんと痛む痛みこそないが、広範囲の腫れは残っているし、膿も出続けている。負担はあまり掛けずに休んでいたはずなのに。
ぬこ。
宿に戻ってからは、クリス君と語り合った。
大学を3年で辞めて、ふと四国行ったことないなーと来て、この宿に泊まったらしい。それから家に戻っていたら、工事を手伝ってくれないかとあつしさんから連絡が来て、またここに戻ってきてからはずっとここにいるとのこと。
どういった場所にいたいか、自分の居場所について。恋愛についても少し話した。昨日の大阪の彼のように風俗には僕もクリス君も行ったことがないし、行く気もないようだ。彼女とかいないの?と聞くと、多分こういうのを現代っ子的と言うんだろうけど、大変だからいらないと言っていた。お金とかも掛かるし、恋愛は趣味の一つだと思うと。うん、作ろうと思えば作れる人間が言うととても説得力がある。
30代くらいのバイク乗りの女性が来た。東京から3日でここに着いたらしい。エンジンは偉大なり。
ちょうどこの日はAKBの総選挙の日で、なぜかおじいさんとAKBについて話すことになった。
おじいさんは可愛い女の子を見ることは男として悪いことじゃないと熱弁を振るっていた。指原って子はあんまり可愛くないけど安心感があるとも。
多分こういうゲストハウスに泊まるのも、若い女の子と接する機会があるからなんだろう。年を取っても自分に正直に生きるというのはかっこいいことなのかもしれない。
旅についても結構語っていた。焼酎はしょっちゅう飲んでるらしい。あはん。
お遍路の途中じゃければいつまでもこの宿にいたいと思った。
午後7時前に明日の今頃はどこにいるだろうかと考えてみた。だが想像もつかない。
名残惜しさばかりで、明日からの遍路旅に全然楽しみを感じないから、ワクワクな気持ちにならないと…と変な使命感を感じていた。
アラームは4時50分にセットした。
若い今時な感じの女の子2人組が来た。車で来たらしい。片方はデカいバックパックだったけど、荷物をパンパンに詰め込んでいるわけではなさそうだった。
タイミングを見計らって、クリス君となおさんにお礼を言った。2人のおかげで本当に楽しく過ごせたから。ありがとうという感謝の気持ちを伝えたかった。
クリス君は、同世代が来てもやたらとテンションが高かったりするから、僕が落ち着いた感じで良かったと言ってくれた。同じ匂いがしたと。僕もほんとに気が合うなと思ったし、クリス君とはとても話しやすかった。
足は大丈夫ですか?となおさんは言ってくれた。もうちょっといてもいいんですよ?りえさんの誕生日パーティーもありますし、と。なおさんも残ってほしいと言ってくれて嬉しかった。
仕方はないけど、おじいさんはテレビの音量が大きかった。でも旅行先ではあんまりテレビを見ないらしくて、見られるときはちゃんと見たいというようなことを言っていたから、僕もクリス君も、な、なるほど…ってな感じで、別に音を下げてくださいとは頼まない。扇風機も独占していたけどこれも気にするほどのことじゃない。そう暑い夜でもなかったし。
バイクの女性も女子2人組もどこかへ行ったきり帰ってこないから(観光してるんだからそれが当然)接する時間はほとんどなさそうだ。
早く寝るべきなんだろうけど、ここ最近は遅かったから寝られそうにない。今寝たところでおじいさんが部屋に戻ってくる音で起きそうだし。
おじいさんはお酒飲まないですかと度々質問していたが、僕もクリス君も飲みたい気分ではなかった(昨日なら飲む人沢山いたのに…)。なおさんにもその質問がいくと、たまに飲みますと。おお、やっと見つかった。ご馳走させてくださいと持参したお酒を嬉しそうに出していた。良かったねおじいさん。うんうん。
明日歩いてみて気持ちよく歩けたらもっと歩きたくなるのだろうか。わからない。どうなることか。
リモコンを渡されたから、老人想いの僕は変わっていたチャンネルをまた総選挙に戻した。
ずっと飲み続けているおじいさんは、可愛いことに加えて、努力してる姿はやっぱり~云々語っていた。
どうせなら誰推しなのか聞いておけばよかった。可愛い子は全員推しかもしれないけど。
21時前におじいさんは部屋へ寝に行った。そしていつもの3人になった。なおさんはシャワーへ行ったけど。
爪横(裏?)の化膿について、色々と調べてみた。細菌感染が原因なら爪周囲炎かひょう疽という病気みたいだ。
酷いと手術が必要なようで、出来るだけ乾燥させた方が良いらしい。でももう乾燥どころではない。旅は再開される。
お医者さんに言われたことだけを鵜呑みにして、何も調べてこなかったから対応が遅れてしまった。でも今の状態を見ていると、乾燥させるだけで何かが変わったとは思えない。抗生物質でもほとんど治ってないわけだから。
バイクの女性が先に、2人組も22時前には帰ってきた。他にも女性の宿泊客はいた、というか松山城への行き方を聞いていたゆるふわの人がまだ帰ってなかったようだけど、門限はないのでもっと遅くに帰ったのかもしれない。どうなったのかはわからない。
22時前に部屋に戻る前に、2人に改めてお礼を言って、おやすみなさいと別れを告げた。明日の朝は早いのでもう会えないから。
足を痛めた甲斐があったと言えるぐらい、そんな楽しさがこの宿にはあった。お遍路とは直接関係はないけれど、僕の遍路旅は、この滞在のおかげでとても楽しいものになった。
部屋に戻るとおじいさんはクーラーをつけていた。扇風機を使えるように(独占されてもいいから)部屋の真ん中に置いていたけど、それでは物足りなかったらしい。
先程リビングでもクーラーをつけたがっていたけど、クリス君がクーラーが苦手というのも知っていたので、扇風機にしてもらったが、まあ、うん。おやすみタイマーなんかも設定してないだろうな。
暑い夜でもないのに、歩き再開前にクーラーで寝るというのはかなり抵抗はあったが、まあ仕方がない。寒すぎないだけ良しとしよう。
明日風邪を引いていませんようにと願いながら眠った。