11月10日。
日の出とともに軽くストレッチをして、ポケットからスマホを取り出す際にできていたさかむけ対策に絆創膏を貼ってから出発。時刻は6時半。
支払を既に前日に済ませているから出発も早め。チェックアウトのあれこれが要らない(ことが多い)気楽さは素泊まりの魅力の一つだ。
観光地を見て回るのももちろん好きだけど、知らない場所に暮らす人々の飾り気のない日常を見るのも好きな自分にとって熊野古道は本当に最適な旅路。観光客が行かないような路地とか歩くのたまらないほど好きなのに、そういう場所を道程として歩けるのはもう最高としか言いようがない。
そんな熊野古道を今日も歩いてゆく。
迷ったりもするけどそれもまた旅を構成する一つであって、迷ってそこから正しい道を見つけるのもまた旅に物語を付け足してくれる。
このコンビニの周辺は生ゴミ臭かった。動物の糞の匂いにも思えたけど、何だったんだろう。
馬越峠へ向かう。
北川橋を渡ると朝焼けが目に飛び込んだ。
朝っぱらから道を間違えたけど、修正出来る小さな間違いだったので問題なし。お墓が両端に立ち並んだ道で、確か七時を知らせる第九が放送されていた。メロディに合わせてトンビが歌っていたのを思い出す。
登り口に到着。
この荷物は写真を撮っていた人のもの。
さあ、今日も登ろう。
美しい道が続く。
茶屋跡でひとまず休憩。茶屋跡に出会う度に、こんなとこでお団子とか食べられたら最高だろうなあと考えてしまう。 期間限定でいいからお茶やお団子を振る舞うというお茶屋さん復活イベントやったらいいのにと思ったけど、そういうことをやるとゴミとか捨てる輩が増えるかもしれないから(ここにも飴の袋があって拾うことになった)無理かなと考えたり考えなかったり。
ちなみにここの茶屋跡は天狗山への分岐にもなっていて、ハイキングがてら朝の散歩代わりに登ってくる地元の人に数人出会った。一人の男性から下りるの?と聞かれ て、向こう側に下ります。と返したけど、実は天狗山の山頂からは絶景が望めるらしく、今は登れば良かったと思っている。時間も8時前とかだったから。
まあ、この場所からの景色も充分爽快だったんだけど。
下ります。
尾鷲市街はそれなりにお街だったのに、もうこんな景色が見えるという。
この近くの道が石の形状的と傾斜的に下り難くくて一転びしてしまった。昨晩まで雨が降ってたから石が濡れていたのも原因の一つ。
また川の水で手が滑らかになってしまう。マイナスイオンが出ているのが理由なら下手にエステとかいくより良いかもしれない。山登りで運動をして、新鮮な水で体を潤すというセットで。女子りょ
下り終わる直前にこの写真の一行とすれ違った。四人の高齢者グループの先頭にいた夫婦?と少し会話を交わした。
この先の道はどうなっているかというのを聞かれたので自分なりに教えた。彼らはちょっと疲れ気味で、まだまだ上りは続きますよと教えるとひえーと声をあげていたのを思い出す。
逆に歩いているということがわかると、八鬼山の話題になったんだけど、雨が降っていたから滑ったりしたけど、でも楽しかったですよと言った。相当キツイですよというのもこれからの彼らを追い込むようで嫌だったからそんな風に言ったんだけど、返ってきたのは「まあ若いから良いよね」という言葉だった。別に嫌味を言われたわけではないと思うんだけど、少しグサッと来たのは、違う言い方すべきだったか、なんて言うべきだったんだろうかとすぐに考えてしまったから。
四人の後ろに自分と同世代くらいの若い男性もいたけど、伊勢路ですれ違った唯一の若者だった。彼と挨拶を交わした際には他の人に挨拶をするのとは違う嬉しさがあった。
そして馬越峠制覇。
次へ向かって歩いてゆく。
でも正直アイスの方は要らなかった。かちこちに凍っていて溶けるのに時間が掛かったし、食べて体冷えたし、味もそんなに美味しくなかったし。
海山という町は山に囲まれてるのになぜかヘリが河川敷に停まっていたり、色々と変わった町だった。
紀北町で歩きながら最も感じたのは、津波対策への意識の高さ。至るところに高台・避難場所への誘導看板が設置されていて、住民と行政にどれほど意識の差があるのかにもよるけど、地震が来ても津波の被害は少なく、かなりの人が助かるような気がした。(後に出てくる手作り東屋のおばさんが教えてくれたけど、3.11以降にここまで整えたらしい)
海に面した町の取り組みとして当然かもしれないけど、他の町と比べても特に目を瞠るものがあった。
だけど一つの津波も来ませんようにと願いながら歩いた。
また間違えたかと小さくため息をついたけど、でも間違えたからこそ綺麗な河川敷を歩けたことは良かったと思う。
段々と山登りに体が順応していって、道っぽい道、つまり平地が逆に疲れる体にこの頃既になっていたと思う。
馬越峠から始神峠へは平地の道が非常に長くて疲れた。平地は目的地までの距離が稼げるという長所もあることはあるんだけど。
気になる資料館があっても、大概はパス。辛いけど仕方ない。
歩くのに適しているとは思えないけど、メロンソーダやクリームソーダがあったら買っちゃいますよそりゃ。そりゃ。
何キロもひたすら歩き続ける。ただ歩き続ける。
ここでどう進めば良いかわからなくて立ち止まっていたら、バスが手前でクラクションとともに停まってくれたけど、乗りはしないから申し訳なかった。でも親切にしてくれてありがとう運転手さん。
地下道を歩いてラブホの手前に出るというのがその迷いの答えだった。ラブホは本当にどこにでもある。何に使うのかは知らない()
まだ歩かないと峠へは着かない。登り口にすら着かない。
トイレの先には手作りの東屋。自分とこの木を切ってこの東屋を作ったらしい。
普通に家の敷地内にあって、明るいおばあさんが出迎えてくれた。このおばあさんのおもてなしがもう聖母レベルだった。
みかんとお茶を出してくれて、九州からだという話をしたら、明日から私は九州へ旅行に行くのよという雑談になった。三重県老人会?かなにかで行くらしく、それからおにぎりも握ってくれた。
なんでこんなに無償でおもてなしをしてくれるのだろうと疑問に思ったけど、遠くからわざわざ来てくれた人になんのおもてなしもしないというのは出来ないってな人らしい。うちは大してお金も持ってなく貧乏だけど、心まで貧しくはなりたくないのよっていう言葉が強く印象に残った。
この前は北海道から来た人が~って話してたけど、熊野古道センターのおじさんが言っていた人達と同一人物だと思う。一度も出会っていないのにその人達の存在を複数回感じるなんて面白い。
こんなに施してもらっていいものかと考えたけど、でもありがたく頂くことにした。本当に美味しかったし、心もほっこりした。もちろんお腹も満たされた。
この女性から、中辺路歩いてそこから伊勢路で伊勢参りが一番良い歩き方だよと言われて嬉しくなった。この熊野古道は誰とも会わないから良いよねとも言っていた。
そして始神峠を登り始める。
登り口からはしばし落ち葉を踏みしめながら歩いた。
江戸道と明治道があるならどっちも歩きたい、完全スルーも寂しいという理由でここの分かれ道(進路的には自分が進んできた明治道との分かれ道)で少しだけ江戸道を下りてみたけど、コース的には普通にこの先は江戸道を歩くことになるから、その逆走は不要だった。まあこんなことも起こります。
下山します。
こういう道標が世界遺産になっているコースにはあるんだけど、数字が書かれているから目安になって助かる。これは新しいから多分最近取り替えられたものだと思う。
始神峠制覇。
宮川発電所の横にあった道標は伊勢まで84km、新宮まで82km。もうすぐ半分だ。
季節次第ではここはとても綺麗に咲いてそう。
桜が満開の季節は特に綺麗だと思う。車は自販機補充に来た人のもの。
反対側は海。
三野瀬駅の手前で道を間違えた。正しい道を進もうとしているからこそ、間違えてしまう。(微かなバッジョ感)
ショートカットになるかもしれないと歩いても…
そう物事は甘くない。
でも正しい道は必ず存在しているから
歩き直したければ
歩き直すことが出来る。
いや、はい。三浦峠道(熊ヶ谷道)へ行きます。
また道を間違えた先で出会った小猫。あまり警戒心がなく、こんなに近くても逃げなかった。
熊ヶ谷道入口に到着。この熊ヶ谷橋は流失していたものを総工費2200万円で復元したらしい。ありがたい橋だ。この橋がなければ僕は三浦峠へ進めなかったのだから。
この熊ヶ谷道を歩いている際に「自然は人を拒絶しない、ただ包み込む」みたいな名言()を思い付いたんだけど、どんだけ現実に疲れきってるんだよという閃きっぷり。
そして三浦峠に到着。現在の峠からは海は見渡せないけど、かつての道からは見渡せたらしい。でも問題はない。
この上に黒い犬っぽい生き物を発見したんだけど、飼い犬の雰囲気はなかったから、あれは野良犬というか山犬なんだろうか。狼かなとも思ったけど、動きが完全に犬のそれ(ぴょんぴょん)だったから違うはず。
三浦峠(熊ヶ谷道)制覇。
ついに半分を越え、伊勢の方が近くなった。忌々しい道標が希望の道標へと変わる。
海も島も美しい。今日もまたトンビが空を飛びながら鳴いている。ふと思ったけど、ここまででトンビの鳴き声を聞いていない日は存在してない。
まだ歩く。道は続いているから、まだ歩く。
車道トンネルの横にグッとくる歩道トンネル。この長いトンネルを進んだ。
トンネルを抜けた先にあったのは廃墟になったラブホだった。夜の底はもう白くならない()
立ち入り厳禁になっていて残念だけど、トンネルを歩くの楽しかったから良しとしよう。
間違いなく逆からこのサボ道を探すのはわかりにくかっただろうから、崩落に助けられたという見方も出来る。
美しくないなんて言えやしない。
みかん出してくれそうな民宿。
この踏切を越えて、海水浴場の方へ行けば、今日の宿はすぐそこ。
予約をしていた「うなばら」へ到着。インターホンを押すと慌てた様子で奥から人が出てくる。しかしここでまさかの事態が発生。
「今日宿泊の予約をしていた~」と告げても、怪訝な顔というか、どちら様…?といった表情。話も噛み合わない。自分自身なぜこんな事態になっているのか理解が出来なくて困ってしまう。
この宿に予約をしていたのは間違いないのに、予約されてました…?という展開になって、もう本当に自分が予約をしていたのか不安になって、今日の宿どうしよう…と予期していなかった不安が生まれる。
そしてそうこうしている内に、奥の方からマスク姿の女性が現れて、その人に対しておかみさんが〇〇ちゃんちょっと待っててね。と言っていてもうお手上げ状態。
ごめんなさいね、急なことがあって…ということだったので、なんか他の宿に電話をして泊まれるか聞いてみるという流れになって、素泊まりでも良いんでお願いします…!と、それでまあ幸いにもその電話をかけた宿に泊まれることになった。
ここの道を真っ直ぐ行って、突き当りを左に曲がって進めば「はまかぜ」さんに着きますと教えてもらったので、言われた通りに進むことに。
この辺りが温泉地で他に宿があったからいいけど、ここに一軒だけとかだったらもっと焦っただろうなと思う。
一番安い宿がここで、朝食付き一泊で確かに予約したはずだから、何が原因か後から考えてみたけど、多分ホームページからネット予約をしたのが原因だと思う。何度も謝られたし、他の宿も手配してくれたから別に不満はないんだけど、対応してないならあのネット予約はホームページから削除すべきだ。
宿の前で「はまかぜ」のおかみさんが待ってくれていた。
結構ふぁんきーなおばちゃんから、湘南乃風のTシャツを着た娘さんにバトンタッチして部屋へ案内してもらうことに。
すげーどうでもいいけど、宮川発電所のさくら公園で自販機の補充してたお兄ちゃんを見てたら、初めて一途になれたよ〜ってのが脳内再生されて、初めて一途になれたよってかなりシュールだなと思ってたらここで湘南乃風Tシャツを着たお姉さんに出会うとは…と奇妙な繋がり。ここのお姉ちゃんとあのお兄ちゃんが付き合ってたりしたらもうパーフェクトミラクル()
とりあえず今日一日の疲れと汚れを落とす為にお風呂に入ることに。結構広めの浴室・浴槽を独り占め出来て気持ち良かった。
お風呂から上がって足を見てみたら回復していたマメがまた悪化していることに気付いた。トレッキング用ではあるけど薄めの靴下を履いていたのが原因とすぐにわかった。この靴下はもうこの旅では履かないことに決めた。
夕焼けとみかん畑。
夕食を食べにお食事処「秀」へ。夜風は冷たかったけど、やはり夜空の星は綺麗。
カウンター以外は満席の店内に入ったときテレビではちょうど大相撲の結びの一番が放送されていた。
おすすめ定食を頼もうと考えていたけど、直前に無性にお肉が食べたくなってステーキ定食を注文した。一枚か二枚を聞かれて、また調子に乗って二枚を頼んだ。頼んだ瞬間にはなんで二枚も頼んでんの自分…となるのも当然。細かく切ってなかったら完食出来なかったかもしれないってほどのボリュームだった。でも中盤に差し掛かり疲れが溜まってきた体には最高のメニューではあったと思う。美味しかったし、後悔はない。
帰り道にちょうど電車が通っていたから撮ってみたけど、何で撮ったのか正直わからない。
明日のコンビニ情報を検索したら…。
夜の部屋は、風が強いから窓がガタガタなっていて、窓ガラスにトントンと何かがぶつかり続ける音が聞こえていたけど、みかん畑とか木々がわりと沢山あったから光に虫が寄ってきてぶつかっていたのかなと予想。
でも部屋の裏にあったトイレのドアが勝手に開いたり閉まったりしていたのだけは謎。ロックが緩んでいるのかなと考えたけど、歯を磨いてるときに勝手にガチャンと閉まったときはもうそういうの怖いから震え上がった。いつもは真っ暗で寝るんだけど、この日は電気を少しつけて寝ましたとさぺろぺろ。
そんな怪奇現象()を含めたとしても、広い部屋で快適だったし、扇風機もあったから洗濯物を乾かすのも捗ったし、何より急遽泊めていただいて本当にありがとうございますですほんと。
宿がなかったから一体どうなっていたことだろう。はまかぜさんには感謝しかない。