熊野古道 伊勢路の旅 八日目

11月13日。
隣の部屋のアラームで目が覚めた。
出発前に外から「しあわせは~歩いてこない~だから歩いていくんだね~」と今の自分に歌われていると受け取れなくもないワンツーパンチソング、三百六十五歩のマーチが聞こえてきた。
外に出て音のする方へ行ってみると神社の前に人が集まっていて、曲が終わるとラジオ体操を始めた。でも今度は曲を流すわけではなく、その場にいる人達が声を出しながら体操をしていた。
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出発の朝と朝霧と。
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三瀬谷小学校を7時頃に通過。
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大谷中学校付近の地下通路をくぐって逆側の道へ。
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幻想的な朝。ここまで歩いてきた自分だからこそ迎えられる美しい朝。
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小学生の女の子が親に元気よく手を振ってからこちらへと歩いてくるのが見えた。うちの万能メガネさんがサングラス状態になってたから外して歩いていくと、近付いたときに緊張した様子で「こんにちは」って挨拶をしてくれた。
もし挨拶が来るなら、この時間だからおはようだろうとこっちもおはようと返す準備をしてたからもう自然と「おはよう」って返してしまったけどかなり緊張してる様子だったからきっとこんにちはになってしまったんだと思う。
可愛らしかったし、やっぱり子供に挨拶されると心が洗われるようだ。
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大谷不動明王は小さな滝が祀られている。下りるとかなり線香の匂いがした。
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三瀬砦跡。伊勢路の幟があるとどこであろうと行かなきゃって気持ちになってしまう。
この辺りは名所を解説している案内板のようなものが沢山設置されていた。
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三瀬の渡し。昨日多岐原神社の奥から見た対岸へ(正確には少し離れてるけど)
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どうやら進めるのはここまでらしい。もっと先に渡し跡があるのかもしれないけど、伊勢へ進みたいからここまでで止めた。
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伊勢へ参ります。伊勢へ。
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八柱神社。
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それは無理。わかるわけがない。
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神宮は~歩いてこない~。だ~から歩いry
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線路へ繋がっている道。ちょうど特急が来て驚いた。僕を見つけた乗客も驚いていたけど。
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フラミンゴというこの潰れてる?店を見たとき、脳内でKero Kero BonitoのFlamingoが流れ始めて一時は終わってくれなかった。
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ポイ捨て禁止って看板をいくら立ててもゴミを捨てる人間は平気でゴミを捨てるんだと近くの待避所のような場所に散乱する大量のゴミを見て思った。子供が手作りで看板を作ったってそんなのお構いなしに、一切胸を痛めず捨てられる連中が沢山いる。

最初は国道を進んでいたけど、線路の上に架かった道が気になって、戻ってからその先にあるもう山側の道を歩いた。
でも進んでいくけどどうも先行きが怪しい。結局グーグルマップを確認したらその道は山へとしか続いていなかったからまた戻って国道を歩き始めた。フラミンゴの呪い。
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このお地蔵さんを見る為に間違えたのだと思うことにした。
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これが間違えた道から見たフラミンゴ。
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ここの国道はやたらとクラクションを鳴らす大型車が気になった。挨拶なら手をあげればいいのに。

このくまさんはまだ営業しているのかもしれない。
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怪しかったから寄らなかったけどどうやら新興宗教の施設っぽい。
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いや、わかるわけがない。
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ここまで来るまでにかなりドライバーからの視線を感じた。多分物珍しかったのだと思う。
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国道はここで終わり。昔から使われてそうな道へと進む。
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8時40分にこのコーヒーギャラリー前にいた。案の定開いていない。

まだまだ一日は始まったばかりなのに、蓄積された疲労が原因で、この時点でもう足を前へと動かすのが辛かった。痛かった。
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でもまだ32kmもある。まだまだ先は長い。
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三谷橋。
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なんだおまえは。
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八柱神社。間違いではなく、少し距離を置いて八柱神社が二社続いている。
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ミセスに時代を感じる。
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Bow-wow。
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ここからは茶畑が続く。
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栗生公民館には花が並べられてあった。栗生ってどこかで見たことのある地名だと考えて、すぐに屋久島だと気付いた。
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一旦古道を外れてサークルKへ。
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そしてまた古道へ戻る。
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もふもふわんわん。もふもふわんわん。
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小さな駅、川添駅。
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何か同じ音が規則正しいリズムで鳴り続けていて、最初は工事か何かしてるのだろうかと疑問に思うも、こんな音は工事からは聞こえないということに気付く。
一体何の音かと近付いていくと、民家の庭で放置されているステンレス板をカンカンと鳴らし続ける黒い鳥がいた。頭が良いのか悪いのかわからなかった。
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伊勢へ近付けば近付くほどその遠さを知る。
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茶畑の先に続きの道があるらしいけどわからなかった。ぐるりと回った先にあったけど。
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行き倒れ墓碑がこの先に。人が死ぬのも納得出来るくらいしんどかった。
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何の穴だろう。
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いろんな道があるのだから、こんな道もある。とても古い道。
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殿様井戸に着いたのは10時頃だった。
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鍵がかかっていた。
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出たら閉め直す。
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他のとこでは絶対迷いそうなところも、この辺りは旗や案内が沢山あったから迷わなかった。
ありがたい限りだ。綺麗なベンチもあったし。
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川を渡る。
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奥に見えるのが明治40年に作られたレンガ造りの神瀬橋。通称めがね橋。
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折れそうだった竹の渡し。
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距離は短いも結構険しい道。
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まだまだ道は続いている。
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神様が並んでいる神瀬の多種神祠。
山の神がお怒りになったときは女神だから男性のシンボルを…ってちょっと単純すぎやしないか。
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馬鹿曲がりを前に少し休憩。草が伸びすぎてるベンチで塩おにぎりやら何やら食べたけど、なぜかここでしゃっくりが止まらなくってきつかった。
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難所馬鹿曲がりに挑む。
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ちゃんと閉めてからね。
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良い道だ。
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と思ったら通れないし、パンツを見てみると粘着性のある黒い種が大量に付着していて不快だった。
トゲのあるものなら今まで付いていたことはあるけど、それは手で取ると手がねっちょりとしてもう最悪。
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ここで水があったから手を洗えて助かった。この水路を進む。
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道がなくなった。
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どう進むのかわからない。いや、わかる。見えている道が進路。
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排水管の中をしゃがみながら、土嚢が積まれた道を進むなんて最高にアドベンチャー感があった。
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出口で蜘蛛の巣に突っ込んだけど、まさかこんな道があるとはと、思わぬ楽しさと出会えて喜んでいた。
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でも土嚢の道は作られていたけど水位が高い日はこの道進めない気がする。
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上から見るとこう。これもまた熊野古道らしい。
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馬鹿曲がりの消失していた部分を再現してくれているらしいけど、そういうのは本当にありがたい。
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あと24km。近いのか遠いのかもわからない。
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わかっているのは歩き続ける必要があるということ。
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秋。
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ここ岡島屋は健脚にとっては伊勢からの最初の宿だったらしい。今も営業を続けているみたい。
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振り返ると小学校や踏切の写真を沢山撮っていることに気付く。その町の人々の生活等を想像し易いからだと思う。
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いくつもの工事現場と遭遇した。古い道は新しい道へと変わるけど、道は残り続ける。
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お滝さん。今は飲めるような感じではないけど。
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ここからの道はあまり景色も変わらずやたらと長く感じた。
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集落に近付くと元坂酒造という古く趣きのある酒屋があったりはしたんだけど。
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あと20km。
足湯の看板を見つけた。疲れているというより足が痛いからこれは良い休憩場所になるのではと近付いてみたけど、残念ながら営業している様子ではなかった。
痛みに耐えながらただ前へと、伊勢へと進むしかない。
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柳原観音千福寺。
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またお前か…!ってチャミーって名前だったのか…!
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熊野古道伊勢路はただ真っ直ぐと道があるわけではなく、真っ直ぐな道(今最も使われているような広い道)から反れてぐるりと歩いたりする。ここもそういった道の一つだった。
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道中さんとして茶屋娘と悲しい物語ではない恋がしたかった!なのに今やまんじゅう屋は竹藪に!なんというsad story…
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寺小屋として使われていた民家?と遠くに見える立派な木。
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幟の色が緑に変わった。参宮線の起点辺りだから変わったのかわからないけど、実は緑は山と同化して見辛いというオチがこの先に待っていた。
高校生レストランが気になったけど、どうやら結構人気な店みたい。そして良い取組だと思う。
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伊勢路最後の峠である女鬼峠へと向かう。
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女鬼峠前の公園で休憩。パンを食べた。
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目がイってる気がする犬。自分が子供だったらきっと怖がっている。
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休憩を終え、登り口へ向かっていたら道を少し間違えた。すると素敵な茅葺屋根の料理店を見つけた。茅乃舎に通ずるものがある。
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そしていよいよ最後の峠。
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看板にはこんな伊勢参宮を目指す旅人への文があった。ずっと熊野へ向けて歩く人の為の説明ばかりだったから、ここに来て初めてのこと。  
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今までの道で一面が紅葉みたいな場所はなくて、多くてもまばらの紅葉しかなかったけど、一本の木だけでもこうやって秋の美しさを感じられる。道端で揺れているススキもまた良かった。
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登り口に到着。歴史を忍ぶ旅人として最後の峠を越えます。
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峠、山の下にはこうやって池があることが多かった。
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登ってゆこう。
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水は無いけど水飲み場。
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疲労も痛みもあるけれど、最後の峠を噛みしめるように歩いていく。
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展望台へ。
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展望台へ到着。気付けば新宮が遥か遠くになった。
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2時前にこの展望台で一人で時を過ごした。
この旅も終わっちゃうなと名残惜しくなりながら、自分が歩いてきた方面、自分が越えてきた山々に対して自然と深く一礼をして立ち去った。
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ゴミを捨てる人がいるのは悲しいけど、誰かが拾えばなくなる。捨てる人がいなくならないのなら、ずっと拾う側の人間でありたい。
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めきこちゃん可愛い。いや、そうでもなry
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展望台から下りると切り通しの峠道。
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最後の峠の最後の茶屋跡。
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荷車の通った轍跡。
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そして全峠越え完了。両手を挙げるでもなく、叫ぶでもなく、大きく息を吐いて達成感に浸った。
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こちら側にあるのはこちらから登る側への説明。親切だ。
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さよなら熊野古道のすべての峠。さよならめきこちゃん。
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今日の宿がある田丸へ向かう。峠は越えたけど、まだ道は続いている。
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蜘蛛の巣があったり、ハエが飛んでいたりしても、近付いた伊勢へと近付いていく。
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飴やストローの袋はうっかりと落としたままということがあるかもしれないけど、おにぎりのこれは捨てる気満々じゃないと道には残らないはずだ。いつもゴミを入れる用のコンビニ袋を持っていたからこれもその中へと入れた。
なんだかこんな写真を貼り続けていると、人の嫌なとこを見せつけていたり、自分の良いとこを訴えかけているようだけど、でもやっぱりゴミは捨ててほしくないと言いたい。
言って伝わる人には言わなくなってわかる気がするし、言ってもわからない人には言ったって無駄かもしれないけど、こんな素敵な道の上に(どんな場所でも悪だけど)ゴミが平気で捨てられていると当然胸が痛む。
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秋の道も良いけど、春に咲く花木も沢山あったから春に歩くのも魅力的だと思う。
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田丸までは疲れを考慮しなかったら約2時間の予定。
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古い家に国際秘宝館の錆びれた看板があるのを何度か見たけど、三重の元祖国際秘宝館はもう解体されてるらしい。

道中であった神社やお寺、地蔵には立ち寄らなくても軽く会釈をして歩いてきた。
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和歌山別街道…。
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笑いが出るほど足が痛くて、どうしてもうつむいて歩いてしまいそうになるけど、でももしかしたらもう二度と来ないかもしれない場所をうつむいて通り過ぎるのは惜しいと、前を向いて、上を向いて、歩くように努めた。どんな景色も見逃さないように。
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長いこと歩いて、何か違和感を抱き、本当に近付いているのかとスマホで現在地を確認すると、違う方向へ進んでいた。
うーん、まじか…とこれ以上疲れられないってくらい疲れていたのに、どっと疲れが増した。
どこで間違えたかはわかっていて、女鬼峠を下りてからは一本道が伸びていたんだけど、その道が分かれ道に差し掛かったとき、車はそっち方面に行くのが伊勢への道でも、熊野古道はどうせこっちなんだろう的な、この旅での経験則か何かは知らないけど、本当に馬鹿らしい間違いを犯して、それに気付かないまま本当に長いこと歩いていた。
結局熊野古道でも近道でもないまったく関係ない道を歩いて、ただ疲労を増やしただけ。
本来の道へと戻るのも長い時間が掛かって、疲労も余分に溜まった。
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疲れ過ぎてるときに間違えたら笑いが出ていたけど、もう笑いすら出なかった。それほど余裕がなかった。 
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でも道を間違えたがゆえに本来歩くはずではなかった道で出会える景色がある。 
疲れすぎてて止まるのも面倒だったけど、綺麗だった。
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柿の道。
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田んぼの中に鎮守の森がぽつんと存在していた。神宮の摂社の一つである朽羅神社で、この神社も倭姫命が定めた。
道を間違えたからこそ近くで見ることが出来たけど、実はこの神社とはまた後で出会うことになるとこのときの僕は当然知らなかった。
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ようやく本来の道に戻った。 4時半前だったか、小学生の下校時間と重なりこんにちはと挨拶する子達と挨拶しない子達とすれ違った。
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多分勘違いだと思うけど、この辺りで紀勢荘のお姉ちゃんに似た人がいた。
その女の人は電話をしながら誰かを待っている様子だった。僕が振り返ったときに向こうも振り返っていたけど、真相はわからない。
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宿までまだもう少し距離はあるのに、雨が降ってきて、空も暗くなった。
そして時間が遅くなり、宿から電話がかかってきた。キャンセルもなしに来ない客もいるのか、あと30分ほどで着きますと伝えると声のトーンが変わった気がした。
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橋を越えればすぐそこ。
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そしてやっと宿に到着。宿の名前は「栄亭旅館」
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へとへとって言葉の三百倍くらいは疲れ切った状態の満身創痍な体でまずはお風呂に入ったけど、頭や体を洗って、三角の浴槽に浸かったとき、もう溜息が出るくらい最高な気分だった。人生で一、二を争うくらい気持ちがいいお風呂だった。

 夕食。柿ってそんなに好きじゃなかったはずなのに、こんなに柿って美味しかったっけ…と思えた。
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この旅はほとんどテレビを点けてないんだけど、食事のときにどうぞテレビでも点けてくださいとリモコンを渡されたときは点けていた。
だから夕食の時間帯の番組、つまり「ほっとイブニング」ばかり見ることになった。生涯でほっとイブニングを見た通算時間をこの旅で大幅に更新した。

この日宿泊する客は自分だけで、別に騒がしい宿なんてなかったけど、宿の家族以外はいなかったから落ち着いて過ごせた。

食事のときにおかみさんと少し話をして、女鬼峠からの道を間違えたと言うと、ああ向こうから来たのですねと遅れた理由を理解してもらえた。
だいだい伊勢から初日の宿として使われることが多いのだと思う。
じゃあ、もうすぐですねと笑顔で言われたのを思い出す。
そう、いよいよ明日は伊勢に着く。


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