5月25日。
猫の鳴き声で4時半頃に目が覚めた。
虫が夜の間来ていたのが気になった。おでかけノーマット?をつけていたけど効いてなかったんだろうか。
御手洗に行きたくて辺りをぶらぶらと探すんだけどなさげで、住宅街の中で立ってするのはロックだけど近隣住民に大迷惑だし、昨日のセブンイレブンに今日も行くことに。
意外と探しまわったから最初からコンビニに行けば良かったなと少し後悔した。洗面台で手を洗っているときは、歯ブラシ持ってくれば良かったなとも。
早朝の馴染みのない道を歩いていたら、昨晩感じていたリタイアしたいという気持ちがなくなっていることに気付いた。清々しい朝がただあるだけ。
小屋に戻って、へんろ小屋や休憩所の東屋等に置かれてあるノートをなんとなく読んでみた。
沢山の人が遍路旅をしていて、ここを訪れたということがわかる。日本人だけでなく外国人も。
こういうとこに和歌でも書き残し続けたらかっこいい気がしたけど、思い浮かばなかったから何も書かずに閉じた。
昨日残していたうどんを食べたら、小雨の中折りたたみ傘を差して、また同じセブンイレブンに行った。今度は歯を磨く為に。スッキリできた。
小屋は布団等そのままでいいよと言われていたけど、出来る限り綺麗にしていくのは当然の務めなわけで、片付けられるものは片付けた。
来た時よりも美しくという心掛け大事。
6時5分頃出発。雨は降っていなかったから雨具はなしで歩くことに。
お世話になりました。
今日の自分には今日の道。新しい道。
悪くない気分での出発だったけど、歩き出してすぐに笠がバックパックにあたることが気になりだした。昨日は感じなかったけど、笠が大きいから後ろであたるみたい。結構どうしようもない問題に思えたけど、隙間に挟んで歩くという方法で対処した。
ガイドマップに載ってなくても休憩所はあるらしい。
屋根のないガソリンスタンドは普段なかなか見る機会がない。(道中にはわりとあったけど)
平成に作られた道標(通称、平成のへんろ石)。視認性◎。
歩いていると、鶏舎のとてもとても香ばしい匂いがした。畜産系の匂いはキツい。
お墓がいたるとこにあることにも気付いた。歩き続けてわかるけど、四国はお墓がとても多い。
この苦しいときこそ笑ってみようという言葉、どこで見たのか忘れていたけど、辛くなるたびに思い出していた。そういう場面がこの先何度もあった。
そして第6番札所、温泉山安楽寺。
安楽寺は掲載目的の撮影禁止になってたからもう撮らなかった。本堂は薬師如来。
温泉山という山号からもわかるように温泉が湧くらしく、大きな宿坊があって、大型バスもマイクロバスも停まっていた。
お参りを済ませてもまだ7時までは15分あったので待つことに。掃除をしているおばさんに挨拶をした。
7時前に年配の夫婦が納経を貰いに中へと入った。東京から高知空港へ来て、レンタカーで回っているとさっきのおばさんと話していた。
自分も貰いに行くことにした。納経をしてくれたのはその掃除をしていたおばさん。自分を見ると「待っててくれてたんや」と。うん、頼めばしてくれたのかな。
雨降らないといいなあ、お気をつけて という言葉をいただいた。
次のお寺へ。
1.2kmはあっという間。第7番札所光明山十楽寺。
ここにも宿坊があって、宿泊客もいた。
本堂。本尊は阿弥陀如来。
大師堂。
7時半頃に若女将って雰囲気な人に納経をしてもらった。
お寺を出ると黒い袈裟?を着ているお坊さんとすれ違った。歩き始めると三人組も後ろに来ているのに気付いたけど、途中でいなくなった。(自分が車道ルートを通ったからだと後に判明)
犬のような生き物。
山にかかる雲を遠くから。
そして8番札所参道。
池と弁天島。良い。
8時半前に着いた。
(見切れている)多宝塔。
(ブレている)参道。
(斜めになっている)本堂。ここ第8番札所普明山熊谷寺の本尊は千手観音菩薩。
鐘楼や修行大師像。階段の上は大師堂。
お参りを済ませ納経所の方へ向かう際におじいさんに挨拶したら、あっははははと笑っていた。前に会っていたっぽい。
三人組も来たから挨拶をした。(挨拶をしたって書いていない沢山の人達とももちろん挨拶をしている。地元の人も、遍路の人もとりあえず目が合ったら挨拶をしていた)
納経を済ませ、自販機前のベンチで荷物をまとめていたら、君早いねえ!とさっきのおじいさんから話しかけられた。少し会話をして、またお会いしたらよろしくお願いしますと伝えたら、またお会いしましょうと返ってきた。
本来この道から熊谷寺まで歩いてくるはずだったみたい。
仁王門。(もうおじいちゃん来てる)
こんな道を歩いて行くんだけど、なんていうか、めっちゃおじいさん早い。身軽というのもあるけど、かなり軽快な足取り。
振り返っての鳥居。
田んぼの中の道。
そして第9番札所、正覚山法輪寺。
本堂。本尊は涅槃釈迦如来。
大師堂。
自分がお参りする前に20代後半か30代前半の女性がきちんと読経してるのを見て偉いなあと思った。大半の人が読経してるんだけど、やはり皆尊い。
おじいさんとまた会話してたら、一緒に歩くことになった。誰かと一緒に歩くというのはこれが初めて。
結構話好きの人でいろいろと話した。70歳だけど毎日3時間は歩いているらしく、昔は登山とかやっていたらしい。三重の人って言っていたかな。
宿に連泊して、そこを拠点とする感じで、荷物を軽くしていろいろお寺を回っているらしい。昨日は道を間違えて迎えに来てもらったみたいだけど、いったいどこで間違ったんだろう。
なんかdisるというか、バスツアーや車遍路の人達に対して結構攻撃的で、やっぱり歩かないと!と話していたのが印象的。
次の切幡寺は山の中腹にあるから登りの道が続いていた。
人と一緒に歩くことのメリットは話し相手ができるということだろうけど、デメリットは写真を気軽に撮り辛いということ。あんまり撮らない人にとっていちいち停止するのって歩きの邪魔だろうから気を遣う。
仁王門。
一人でいるときも撮る際にちゃんと停止しないで撮るからブレたり、ピンと合ってなかったりすること多いのに、歩きながらだともうね、うん。
約800メートル、333段の階段を登って本堂へ。
歩くのとは違って、足を持ち上げるのは、歩くの以上に体力を消耗する。
最後に女厄坂、男厄坂を登り終えると、大塔やお堂がある開けた場所へ。第10番札所得度山切幡寺。
本堂、本尊は千手観音菩薩。
奥が…大師堂…です…。
お参り、納経を済ませて少し休憩。
いい感じに蚊に刺されてます。そしてまだ肌が白い…!
おじいさんと話しながら休憩していたら、そのおじいさんよりは若いけど定年退職はしてそうなおじさんが会話に入ってきた。
ありがたいんだけど、その人が結構上から目線でアドバイスをする人で、おじいさんがキレないか心配だった。まあ意気投合というか、気付いたらいい感じにアツく語り合ってたから良かったけど。
もう行かないと思いながらも5回は回っているらしい(今回は車っぽい)。焼山寺には水は2リットル持っていけ、山の中の水はお腹壊すから飲むな、とか。明日は雨みたいだからあれだったら焼山寺はスルーして他の平地のお寺を回るといい。みたいな助言をくれた。
ここから焼山寺方面が見えているらしい。(わからない)
次の11番札所へ歩き出す。おじいさんいつまで一緒に歩くのかわからないけど、歩きたそうだからまだ一緒に歩くことに。
階段と下り坂を降りて参道のお店が立ち並ぶところまで戻ると、あの黒い格好をしたお坊さんがいた。
おじいさんと親しげに話し出して驚いたけど、昨日も会ってたみたい。お坊さんは自分のお寺が火事に遭ってしまい、立て直すのに88箇所のお寺の砂を集めているらしい。
参道にあるお店の女性の荷物お預かりしますよという問いかけに、では…とお坊さんは荷物を預けていた。
僧が預けているんだから、自分も預ければ良かったなと思いながらも、どのくらいの量集めてるかは知らないけど、重いだろうにすごいなあと敬服。
歩き続けてお昼になったので、耕うん機のような機械が沢山置かれている場所に作られている小屋で休憩することに。コンビニで買っていたおにぎり等を食べた。おじいさんは宿に作ってもらったお弁当を。
低い橋を渡って吉野川を渡る。車の通りが意外とあってその度に端に避けたりする必要はあったけど、良い道だった。
遍路には橋で杖をついてはいけないという決まりがあるから、長い橋で杖はずっと手に持ったままで歩いた。重さはそんなにあるわけじゃないけど、長時間持ちっぱなしだと少しは負担になるのは間違いない。
川を越える途中に、巨大な中洲になるのか田畑が広がっているんだけど、肥料の匂いだろうかなかなか強烈だった。
橋の手前で自転車に乗っている人に挨拶したら、わざわざ自転車から降りて挨拶を返してきた人がいた。
おじいさんと歩くことでずっと感じていたこと、それはこの人も昨晩のおじいさんのように途切れずにマシンガントークをする人だということ。
もうずっと喋り続けていた。本当に、ずっと喋っていた。
なんともまあリアクションの取りづらい親父ギャグを言ったり、分かれ道のたびに何度も自分に確認してきたりして(大きく書いてあるんだからわかるでしょうよ…といったところも)、ただ一緒に歩いているだけなのにこちらが一方的に疲労を感じているような状況だった。
突然手を上げたと思ったら信号を無視してトラックに轢かれそうになったり、気が気じゃなかったけれど、それでもこの人は弘法大師かもしれない…と思ってみるという狂気的なセルフマインドコントロールで、精神的負担を感じながらも、一緒に歩き続けた。道を間違えればそちらではないと丁寧に教えた。
そしてもう一つ困っていた事案というか、解決したいことがあって、それは郵便局に行って不要な荷物を送りたいというもの。
主にカメラのことなんだけど、絶対に必要ではないものを減らして少しでも荷物を軽くしようと。これから遍路ころがしと言われる難所焼山寺への登山をしなきゃいけないわけで、それまでに済ませておきたかった。
カメラはそりゃあった方がいいんだけど、もういちいち取り出すの面倒だったし、何より自分のスキルではミラーレス一眼もiPhoneも大して変わらないだろうってな理由。
前から伝えてはいたんだけど郵便局あっても前にいるおじいさん普通に素通りして歩いていくし、クロネコで送れますみたいなのぼりがある場所も寄り辛いから、ちょっと郵便局に寄るんで~と別の道を行くことに。なんかついてくる感じだったから、先に行っててくださいと言って一旦別れた。
これでお寺への道からはそれることになるけど、おじいさんからは解放された。少し安堵して、マップ上では結構近そうだったから、ガソリンスタンドの店員に郵便局どこにありますか?と聞いて教えてもらい、飯尾郵便局に着いた。
その郵便局からゆうパックで、ミラーレス一眼とその充電器、iPodとその充電器、防寒着として持っていたコンパクトにまとまる薄手のパーカーを、バッグパックから出して、貰った新聞紙に包んで詰め込んだ。
正直iPodもパーカーもこの先欲しい場面は何度もあったから(特にiPod)、カメラだけで良かった。
どうせなら複数減らしとこうという気持ちがそのとき働いたんだろうけど、まあ、人間ミスもある。
郵便局から出て、へんろ道ではない道を通って、お寺へと向かう。
正直そんな重さの違いは実感できなかったけど、でも軽くなっているということは間違いないし、そのままだったら少しでも荷物の重さを感じたときに、減らせたのにな…という負の感情が生まれただろうから、選択は間違いではなかったと思う。
そして第11番札所、金剛山藤井寺。
着いたらおじいさんいた。そう時間経たずに宿の迎えが来たからそこで別れることに。また会うかもしれないけどと言いながらいろいろ応援してくれた。
このおじいさん、通しで回る予定と言っていたけど、その後どうなったかはわからない。
正面の本堂と右にあるのが大師堂。本尊は薬師如来。
この白い犬昨日も見た気がする。
お参りと納経を済ませると、とりあえず飲み物を自販機で買い足してベンチで休憩を取ることに。
何人かに話しかけられて、スパッツの話をしたり(スキンズとかああいうスパッツが出されたから初心者でもマラソン完走できるようになった)とか、後ろから見ると女の子に見えるぞと言われたりした。
これからどうしようと迷った。
次のお寺へは細く険しい山道で8時間掛かるとされている難所。基本的に朝一で登り始めるのがセオリーらしいけど、ここらへんに野宿できそうな場所はない。
それに朝一から登り始めてもしあのおじいさんに再会したら、また大変なことになりそうだという不安。
次のお寺にたどり着くことは不可能でも、野宿場所リストには登った先に柳水庵という小屋が載っているから、あまり食料は持ってないし、ここまでの疲労もあるけど、もうこのまま登ってしまうことに決めた。
うんざりしていて、帰りたい気分だったけど、ここで辞めると遍路ころがしを前に怖気づいたんだなとなるのが嫌という気持ちもあった。
焼山寺への登り口は藤井寺の境内にある。その道を進もうとしていたら団体さんに今から登るの?と尋ねられ、そして応援してくれた。
15時15分頃のこと。バス団体のおっちゃんが一人、どんな道か知りたかったみたいで、少しだけ付いてきた。すぐに引き返してたけど。
初っ端からそれなりに登らされた。でも軽快に足は進んだのを覚えている。
でもある分かれ道から登ったり降りたいをこまめに繰り返し始めて、アップダウンはあるというのは知っていたけど、さすがに早すぎないか…?と疑問を抱きつつも、八十八ヶ所の本尊を祭った祠が並んでいたから、ここを順番にたどって行くのだろうとのんきに考え、歩き続けた。
まあ結局、その道はぐるりと回って藤井寺の方へ戻っていて、さっき自分がいた場所が見えてきたから、間違いに気付いて、分かれ道まで戻ることに。
山道で無駄に時間も体力も消耗して、ほとんど進んでないのに、ここで少しペースが落ちたような気がする。
そしてここが遍路での本格的な山道初だったんだけど、強く思ったのは、なぜ自分はトレッキングシューズを履いていないんだということ。
舗装道が9割だからウォーキングシューズが良いというのをどこかで読んで、それを何も考えず信じてウォーキングシューズで来た。そのことをここで後悔した。この靴で登山はキツいと。
でも歩くしかないから、汗を大量にかいて目に入ったりしながらも歩き続けた。
止まるのが面倒なのにシャッター押してるから、写真ブレまくりで載せづらい。熊野古道のときから学んでないなあとため息が出るけど、その瞬間は余裕がなかったというだけの話。自分でもわかっていることだし。かっこ悪いのには違いない。
まあ雰囲気はわかるかもしれないから、適当に載せるとしよう。
見てわかるように、一旦車道に出た。横断するだけだけど。
ポイ捨て、よくない。拾います。
山を登っているわけだから、こんな景色にも出会う。こういった景色を楽しめる余裕があるかないかは置いておいて、こうして見ると良い景色。
まだまだ遠い。山道では平地とは比べ物にならないほどの時間が掛かるし。
端山休憩所という休憩所に16時前に着いた。だいぶ疲れていたからこの休憩所で寝れるかもということに期待はしていたけど、屋根はあっても寝袋しか持っていない自分にはとても野宿できる場所ではなかった。やはり柳水庵まで行かないといけない。
休憩を取っていたら一人の男性が降りてきた。ここから柳水庵までは2時間くらいとのこと。背が高いから外人かと思ったよと言われた。(そのときは自分はメガネ兼サングラスかけていたかも)
ヘッドライトは持っているかと聞かれて持っていると答えた。なら大丈夫と言ってくれた。日没も近づいているからそれも当然不安材料。
眺めは良いけれどいつまでも休憩していられないから先を急ぐことに。
登り始めて3.2kmで長戸庵に。素通りした。
斬新。
雲の上に来てしまった。この前後に少し小雨が降って、大事になるのではと心配したけれど、降り続くことはなくて助かった。
はい、柳水庵へ向かっています。
でもこういう道標があるのはいいけど、歩いている最中は、全然たどり着かないな、そろそろ着いてもいいのに、そういったことしか感じられなかった。
昨日寝れなかった体は、更に疲れを溜めていくし、本当にキツかった。
登り続けて、こういった時間の目安が書いてある看板があった。でも疲れは限界に近付いていて、少しはモチベーションが回復したけど、この時間でたどり着ける自信もなかった。
少しでも足を止めて休憩しようものなら蚊やハエの総攻撃を食らうというナチュラルヘブン()
「もういやだってなった数の分だけもういやだってなってる」という名言を思いつくぐらいにはひどく疲れていた。
目安はあるけど、稀にしかないから、現在どれくらい距離近付けたかみたいなことが全然わからないし、気に掛ける余裕もなかったから、ほんとに一歩ずつ登るしかなかった。この辺りはもう疲労で歩行速度はかなり遅くなっていた。
鹿の鳴き声が聞こえて、日没に怯えても、速度は遅いまま。
チョコみたいな甘いもの欲しいなと思って、熊野古道のときは小分けしてあるチョコを常備していたことを思い出した。でもここにはない。
疲れているから休憩を取りたいけど、取っていたら体が冷えていく山道。寒くなってきて風邪を引きそうだと感じた。
ベンチの上に落ちていた白い花が綺麗だった。この花は道端にちらほらと咲いていた。それを見かけるたび綺麗だと思った。
柳水庵までの時間が25分に減っても、疲れは減らないから、立ち止まっては歩き、立ち止まっては歩き、を繰り返した。アップダウンのある道で、それだけ疲れていた。
あまりに疲れすぎてこの旅を始めた自分にうんざりしたりもしていたけど、ここではもう足を進める以外の選択肢がなかった。
そして歩いて、歩いて、下の方に建物が見えてきた。下りていく。
相変わらずロックなブレっぷりけど、ここが柳水庵。ここにはトイレもあった。もちろん臭いや虫とかはお察しな状況だけど。
泊まれる小屋はこの先にあるはず。更に下りていく。
完全に山の中。
100mほど下りると小屋があった。心からの安堵に包まれる。18時40分。
端山休憩所からは2時間40分ぐらい掛かってるけど、着いたからもう何でもいい。迫ってはいるけど日没前でもあったし。
とりあえず中に入って一息つく。小屋の横に水があるからタオルを濡らし、体を拭いてから服を着替えることに。
小屋はまだスペースがあるから、こんな山の中に一人というのもあれだし、誰か来たら面白いのになと思ったけど、まあ来るはずがない。
うん、来るはずがないと思っていた。このままただ自然の暗闇に一人包まれるのだろうと。
すると鈴の音が聞こえてきた。リンリンリンと鳴る音。でも杖の鈴とは違う音、その音が近づいてくる。誰かがいると、少し身構えた。
そして音が止まった。ガラス越しに外を見た。なんかイケメンがいる…。
こんにちはーと挨拶されたので、ドアを開けて挨拶を返した。彼も小屋の中に入って話をした。
千葉から来た27歳で、名前はひかる君。個人的には永山絢斗に似てるかなと思った。雰囲気もすっごい爽やか。
彼は88箇所だけでなく、別格と言われる88箇所とは別の20箇所のお寺も回っているらしい。(88+20=108、煩悩の数になる)
アウドドア慣れしているというか、山とか結構登る人(鈴の音は熊よけのものだった)みたいで、今回はテント泊がメイン。ガスバーナーとかも持ってきてて、インスタントの食事も持っていた。(そういう趣味のものを入れるために寝袋とか削ったり、余計重くなってるから、おかしな構成ですけどねみたいに笑ってた)
そのときは小屋の前の水(名水~~と書いてあった)でコーヒーを淹れてた。その姿が様になっててかっこいいと純粋に思った。山頂とかでも淹れたりするらしい。きっと楽しいだろうなと感じた。コップあったら入れますよって言ってくれたけど、まあ持ってなかったから遠慮した。紅茶派ってのもあるけど()
煙草吸っても大丈夫ですか?と聞かれて、大丈夫ですよと答えた。普段は苦手だけど、これまた様になってたのを思い出す。街中で見るおっさんやヤンキーの喫煙者とは別の生き物感があった。本当に。
旅好きの人でいろんなことを聞けて、沢山話せて楽しかった。
帰りたいと本気で思い続けていたこの旅で、初めて楽しいと思える時間だった。
ちなみに端山休憩所で自分が少し話をしたあの男性とすれ違ったらしく、先に若い子が行ったよーと聞いていたらしい。
話の流れから糖分が取れてないと言ったら、ブラックサンダー2つくれた。イケメンな上に優しいって…。本当に助かった。お腹減ってたから1つはその場でいただいた。
なにかお礼がしたかったけどこれといったものは持ってなかったから、自分が外に出してたサンダルをいつでも使ってくださいと貸した。小屋から水場まで少し距離があるから、歯を磨くときなんか役に立ったみたいで良かった。
小屋の壁に貼ってある地図等を見ながらこれからのことを話したのを今でもはっきりと思い出せる。
電灯はあるんだけど、スイッチがどこにもないというハプニングで電気はつけられなかった。暗くなってからはひかる君がヘッドライトを吊らしてその明かりで過ごした。(柳水庵と電線繋がっているみたいだったから、もしかしたら柳水庵にスイッチがあるのかも)
電気はつかなかったけど、天井付近にあるコンセントは使えたから、自分は使わなかったけどひかる君が充電していた。
他には座布団があるだけだった。でも水場はすぐ近くにあって、トイレも少し登ればあるわけだから良い小屋だと思う。
ライトなければ真っ暗闇だったし、明日もあるから早く寝ることに。
手前が自分のマットと寝袋、奥がひかる君のマット。ひかる君は寝袋なしだったから夜中寒かったらしくかなり着込んでた。(ボカしているのはわざとです)
素敵な人との良い出会いがあったなと心から嬉しくなった。やっぱり旅は楽しい方がいいと改めて実感した。
ひかる君と出会うほんの少し前まで、どうしたいのかと自問して、頑張るしかないだろう…と自答していたような精神状態だったから。
途中何度か起きたけれど、静かな環境で想像していたよりは案外眠れた。
小屋という室内で、寝袋もあったから、山の中の寒さも問題なかった。